リテールメディアはブランドを構築する:購買データと生活文脈を生かした新たな広告基盤

リテールメディアは、購買直前の消費者を捉えるだけの「ラストワンマイル型」の広告手段ではない。サイト内、サイト外、そして実店舗というさまざまな接点を組み合わせることで、ブランド認知から購買まで、マーケティングファネル全体に影響を与えるメディアへと進化している。

リテールメディアに対しては、マーケティング効果を重視する層を中心に、いまだに厳しい見方がある。「小売企業が広告主に課す新たな税金にすぎない」「メディア費用が高い」「本来発生していた売上を広告の成果として計上している」といった批判である。

『How Brands Grow』で知られるエーレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ教授も、リテールメディアについて、基本的には購入直前の消費者を捉える仕組みだという趣旨の見解を示している。
マーケティング業界では、パフォーマンスメディアへの過度な投資によってブランド構築が軽視されているという問題も指摘されてきた。この点については妥当な批判である。しかし、その問題の原因をリテールメディアに求めるのは適切ではない。

むしろリテールメディアは、ブランド構築と販売促進を対立させるのではなく、両者をつなぐメディアとして活用できる。今後、先進的な広告主ほど、その可能性を積極的に取り込むことになるだろう。

リテールメディアはブランド構築とマーケティング効果を両立できる

Vinet、Fields、Ebiquityによるマーケティング効果の研究では、広告予算のおよそ55~60%をブランド構築に振り向けることが望ましいとされている。CMO(最高マーケティング責任者)やブランドマーケターの多くも、長期的なブランド価値を考えれば、相応の予算をブランド構築に配分したいと考えている。
ところが米国市場では、広告投資の70%以上がパフォーマンスメディアに集中している。

この状況を変える可能性を持つのがリテールメディアである。質の高いメディアとコマースが隣接することで、広告が認知や検討だけで終わらず、実際の購買行動までつながりやすくなるからだ。これは小売サイト内の広告だけでなく、サイト外の広告や店舗内メディアにも当てはまる。
リテールメディアには、当然ながら商品の物理的な入手可能性を高める役割がある。しかし、それだけではない。小売事業者が持つ巨大な顧客基盤を通じて、ブランドのリーチや認知を拡大できる点も重要である。

従来、リテールメディアは販売促進のための限定的な広告手段として扱われることが多かった。しかし、店舗内のデジタルサイネージなどは、テレビ広告がかつて担っていた大規模なリーチに加え、購買環境における文化的な関連性や高い注目度を提供できる。店舗そのものが巨大なメディア空間になりつつあるのである。
それでもブランドマーケターがリテールメディアへの予算配分に慎重になる背景には、マーケティング・ミックス・モデル(MMM)の存在もある。MMMではブランド構築施策がROIを生み出す重要な投資として評価される一方、リテールメディアは十分に評価されてこなかった。]

その一因は、MMMが従来の線形テレビなどについて蓄積されたデータや過去の評価を強く参照していることにある。マーケターの約70%がリテールメディアの評価に課題があると指摘するのも、こうした測定上の問題と無関係ではない。

これに対し、インクリメンタリティを検証する因果モデリングでは、リテールメディアネットワークが高いROIを示すケースが繰り返し報告されている。
つまり、リテールメディアを既存のブランドキャンペーンを奪う競合チャネルと考える必要はない。むしろテレビなど従来型のブランドメディアを補完する存在として捉えるべきである。Ogilvy UKの副会長ロリー・サザーランド氏がリテールメディアを「文脈に応じたブランド構築」と表現しているのは、その本質をよく表している。

サイト内・サイト外・店頭――リテールメディアは「メディアの上に重なるレイヤー」へ

リテールメディアの成長を考えるうえで重要なのは、それを単独の広告チャネルとして捉えないことである。
eMarketerによれば、リテールメディアは検索広告、プログラマティックディスプレイ/動画、ソーシャルメディア、CTV、デジタルOOHなど、主要な広告領域のそれぞれに入り込んでいる。広告支出に占める各領域の比率は、検索29%、プログラマティックディスプレイ・動画11%、ソーシャルメディア6%、CTV16%、デジタル・アウト・オブ・ホーム15%などとなっている。
ここで重要なのは、リテールメディアが「一つのメディア」ではなく、既存のさまざまなメディアに重なるレイヤーになっていることである。そして、その多くはすでにブランド構築が行われている場所でもある。

リテールメディアには、従来型のブランドメディアにはない利点もある。購買価値の高い消費者セグメントに対するターゲティング精度を高められること、既存購入者への過剰な広告配信を抑えながら新しいオーディエンスへリーチを広げられること、そしてファネル全体でブランドリフトを生み出せることである。
具体的には、三つの領域でブランド構築への活用が可能だ。

サイト内リテールメディアでは、スポンサードプロダクトは購買に最も近いファネル下部の施策である。しかし、そこだけを見る必要はない。サイト内のディスプレイ広告や動画広告まで活用すれば、より上流のブランド形成に踏み込める。強いクリエイティブを適切な購買文脈で届けることで、ブランド認知や想起を高め、新しいブランドを買い物客に知ってもらうことができる。競合ブランドから顧客を獲得するための接点にもなる。

サイト外リテールメディアについては、P&Gの積極的な投資が象徴的である。Sensor Towerによると、P&Gのサイト外リテールメディアへの投資は過去1年間で2倍以上に増加しており、他のCPG企業を大きく上回る規模になっている。特にソーシャルメディアとストリーミングTVへの投資比率が大きく伸びている。ブランドごとに90~100%のターゲットリーチを目指すことで知られるP&Gがオフサイト・リテールメディアへの投資を加速させていることは、ブランド構築とリテールメディアの関係を考えるうえで重要な事例である。

店内リテールメディアには、さらに大きな可能性がある。すでに店舗を訪れ、自社商品を購入しようとしている消費者に広告を見せ、その売上を広告の成果として単純に帰属させるのであれば、ROASは非常に高く見える。しかし、それだけでは広告によって追加的に生み出された売上、つまりインクリメンタルな効果を測定したことにはならない。

したがって、店内広告についても、単純なROASやアトリビューション売上だけを評価指標にするべきではない。増分売上を検証するには、広告を実施した市場と類似した市場を比較するマッチドマーケットテストなどが一般的に用いられる。
一方、大手小売業者が持つ店内オーディエンスの規模は、巨大テレビネットワークに匹敵するほどである。しかも、店舗という購買環境に合わせた新しいクリエイティブを試すことができる。店内で接触した広告の効果が、その場の購買だけで消えるとは限らず、買い物を終えた後もブランド選好や認知に影響を与える可能性がある。

リテールメディアへの投資は「テレビから奪う」のではなく、成果の低い広告から移す

リテールメディアをめぐる議論で重要なのは、ブランド構築かパフォーマンスかという二者択一をやめることである。
マーケティング効果を重視する論者が、パフォーマンスメディアへの過剰投資やブランド構築の軽視を批判してきたこと自体は正しい。しかし、その議論をリテールメディアにまで一律に当てはめるべきではない。ブランドマーケターが従来のテレビ予算を守ろうとすることにも合理性はある。だからこそ、新たなリテールメディア予算をリニアテレビから機械的に移す必要はない。

むしろ見直すべきなのは、十分な成果を生み出していないパフォーマンスメディアへの投資である。検索、ソーシャル、品質の低いオープンウェブ上のプログラマティック広告など、すでに過剰な予算が投入されているチャネルから資金を移す余地は大きい。
特に、Googleの「Performance Max」やMetaの「Advantage+」のようなAIを利用したブラックボックス型の広告運用については、ブランド側がどこまで透明性や増分効果を確認できているのかを改めて検証する必要がある。
もしブランドがこうしたチャネルの一部から予算を削減し、リテールメディアへ振り向ければ、購買データとメディア接触を結びつけながら、ブランド認知からコンバージョンまでを一貫して設計できる可能性がある。

リテールメディアの価値を正しく評価するためには、これまでのMMMが前提としてきた固定観念からも距離を置かなければならない。重要なのは「どのメディアがブランド構築用で、どのメディアが販売促進用か」という分類ではない。
消費者がブランドを知り、興味を持ち、商品を検討し、購入し、再び選択する。その一連の行動のなかに、リテールメディアはすでに入り込んでいる。
リテールメディアは、単なる「小売店の広告枠」ではない。店舗、ECサイト、検索、ソーシャル、動画、CTVなどを購買データと結びつけることで、ブランドと消費者の接点そのものを再構成するメディア基盤になりつつある。

だからこそ、これからの広告主に求められるのは、リテールメディアを短期的なROASを稼ぐための手段として使うことではない。ブランド構築と販売の両方を支える「新しいメディアレイヤー」として捉え直し、どこに投資すれば本当にブランドが成長するのかを検証することである。(出典:ADWEEK、画像:iStock)

関連記事一覧