
エクスペディア・グループが強化するクリエイター戦略 旅行ブランドの新たな成長モデル
Z世代への訴求を強化するクリエイター活用
近年、カンヌ・ライオンズではクリエイターエコノミーの存在感が急速に高まっている。会場ではインフルエンサーやオンラインクリエイターを中心としたプログラムが数多く展開され、ブランド各社も従来型広告からクリエイターとの協業へとマーケティング投資を拡大している。
旅行大手のエクスペディア・グループも、その流れを積極的に取り入れている企業の一つである。同社は、若年層との接点を拡大するとともに、従来型メディアだけに依存しないマーケティングを推進するため、クリエイターとの協業を重要戦略として位置付けている。
象徴的な事例が、YouTube登録者数5,500万人を超える人気配信者IShowSpeed(ダレン・ジェイソン・ワトキンス・ジュニア)との提携である。2026年4月、エクスペディアは同氏にとって初めてとなる旅行業界の公式スポンサーとなり、世界規模のキャンペーンを展開した。
この企画では、長時間に及ぶライブ配信を軸に旅行体験を紹介するとともに、配信中に登場した観光地や体験をそのまま予約できる専用マイクロサイトも開設した。視聴者はコンテンツを楽しむだけでなく、実際の旅行予約へとシームレスに移行できる仕組みが整えられている。
統合マーケティングおよびクリエイティブ担当シニアバイスプレジデントのナタリー・ウィルズ氏は、「IShowSpeed自身が巨大なメディアチャネルであり、多くのメディア企業を上回る影響力を持っている」と評価している。
ブランドの世界観を広げる多様なコラボレーション
エクスペディア・グループは、Expediaだけでなく、Hotels.comやVrboといった旅行ブランドも展開している。同社は近年、旅行サービスそのものだけでなく、ポップカルチャーとの接点を積極的に広げている。
その代表例が、おもちゃメーカーのマテルとの年間パートナーシップである。この取り組みはスーパーボウル広告にも活用され、映画『バービー』で人気を集めたキャラクター「ケン」が初めて一人旅へ出るというストーリーを制作した。
ケンは航空券、宿泊施設、レンタカーなど、エクスペディアが提供する旅行サービスを利用しながら旅を楽しみ、同社が掲げるブランドプラットフォーム「The One Place to Go Places(旅行のすべてが集まる場所)」を体現する内容となった。
このようなエンターテインメントとの融合により、旅行予約サービスという機能的価値だけでなく、ブランドそのものへの親近感や文化的な存在感を高める狙いがある。
「本物らしさ」がクリエイター戦略の核心
ウィルズ氏は、IShowSpeedとの提携について「旅行会社がこれまで彼と組んでこなかったことが驚きだった」と振り返る。その理由として、IShowSpeedのコンテンツそのものが旅行体験を中心に構成されている点を挙げる。彼は各国を訪れ、その土地の文化や人々との交流をリアルタイムで配信し、視聴者を旅へと引き込むスタイルを確立している。
さらに同氏は、AIが急速に普及する時代だからこそ、人々は「本物らしさ」をこれまで以上に求めていると指摘する。IShowSpeedのライブ配信は編集されておらず、予測不能な展開も多いため、企業側には一定のリスクも伴う。しかし、そのリアルさこそが視聴者との強い信頼関係を生み出しているという。一般的な30秒の広告とは異なり、数時間から十数時間に及ぶライブ配信は、「次に何が起こるのか分からない」というライブならではの魅力があり、高い没入感を生み出している。
もちろん、ライブ配信ではブランド側が内容を完全にコントロールすることはできない。それでもエクスペディアは、クリエイター自身が最も自分の視聴者を理解しているという考えのもと、創作の自由度を尊重した。
ウィルズ氏は、現在のクリエイターマーケティングでは「広告らしさ」を排除し、クリエイター自身の自然な表現を維持することが重要だと説明する。もし企業が細部まで演出してしまえば、単なる広告として受け取られ、視聴者との信頼関係は損なわれかねない。
そのためIShowSpeedには、エクスペディアで予約できる旅行商品や現地体験を、自ら実際に利用しながら紹介してもらう形を採用した。視聴者は動画を見た後、そのまま専用サイトを通じて紹介された体験を予約できるよう設計されている。
エクスペディア・グループでは、ブランドごとに異なるマーケティングチャネルを活用しているが、クリエイターとの協業は今後も中核的な戦略として位置付けられている。特定のターゲット層へ効率的にリーチし、高い共感を生み出す手法として、クリエイターとのパートナーシップは今後さらに重要性を増していくとの考えを示している。(出典:MARKETING DIVE、エクスペディア)
















