「圏層社交」と「搭子」~中国Z世代の最新の社会形態

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Contributor SyuiRan

伝統的な社交から若者の「圏層社交」

中国においても、ネットワーク情報社会化が進む中、出身地や生育環境・家庭環境、学歴・人生経験・仕事内容など、従来の社会的コミュニティに関わる多くの社会属性は、近年交友関係における重要な影響要因ではなくなってきている。
若者は無意識のうちに、より多様な次元の特定の集団に組み込まれ、人々は自分の興味や価値観などに基づいてさまざまなサークルグループを形成し、自分が共感して選んだサークルの思考に従って社交し、それが実生活に波及していく。

したがって、伝統的な交友関係とは異なり、今日の若者のネットワーク「圏層(チュエン・ツォン)=サークル化は、もはや血縁関係や地縁関係をサークル分けの主な根拠とせず、代わりに異なるアイデンティティや関心を通じて、人々は異なるタイプの集団的「サークル」に分けられ、その結果、異なる価値志向、言説論理、行動指針が形成され、集団的で異なった対人ネットワークを構成するものだ。

たとえば、「饭圈(著名人ファンサークル)」「露営圏(キャンピングサークル)」「二次元圈(マンガ・アニメサークル)」「电竞圈(ゲーム/eスポーツサークル)」など、自分の価値志向に合致した、あるいは自分の情緒的欲求を満たすニッチなサークルに身を置く傾向がある。
Z世代などの若者は、自分の価値志向に合致した、あるいは自分の情緒的欲求を満たすニッチなサークルに身を置きながら、他のサークルとは一線を画し、心理的なレベルからアイデンティティや情緒的な共鳴を求め、個人の存在感を反映させることで、自らを「インサイダー」とする傾向がある。

「搭子(ターツ)」のトレンド

「圏層社交」はインターネットから生まれたものであり、実生活への橋渡しはいわゆる「対面」、つまりインターネット・ユーザー同士の出会いでなければならない。

しかし、この2年ほどの間に登場した「搭子(〜友)」は、ネット上のサークルの認識からくる通常のネット民の顔の見える関係とは異なり、より人をベースに、画面をタップする相手との接点や理解を深めたい、つまり現実的にもっと多面的なつながりを期待するものである。

しかしながら、「搭子」の目的はより単一的で明確であり、それ以上のつながりが生まれないことを前提としながら、”人”ではなく一緒にやりたい”こと”を志向する。ネット上の社交界とは異なり、「搭子」には物理的な交友関係が必要だ。

オンライン・コミュニティの関係では、映画好きの仲間とは、映画に関する内容だけを激しく、思索的に語り合っても、実生活では赤の他人であることに変わりはない。しかしオフラインで映画を観たいとき、美的嗜好を共有できる相手が欲しいとき、映画を観るだけではなく、映画について深く語り合いたいとき、現実の友人ではこの条件を満たせないと思ったとき、必要なのは、双方にとってシンプルで明確な目的を持った「映画搭子」なのだ。

中国での最近の若者の社交に関する調査1では、半数以上の若者がこの「搭子」を持っており、持っていない31%のうち、半数以上がまだ「搭子」を欲しがっていると報告されている。

たとえば、日本の若者がお酒をあまり飲まない傾向にあるのとは対照的に、中国の若者は近年、お酒とその文化を再認識し、楽しむ傾向が強まっているが、まだまだお酒を飲まない人の割合が多いため、現実の友人ではなく、見ず知らずの人からお酒を楽しめる相手を見つけることはほとんど不可能になっている。
現実の友人ではなく、見ず知らずの他人から「酒搭子(飲み友)」を探すことは、インターネットや現実世界で最もファッショナブルな行動のひとつとなっているのだ。

実際に、外資系企業に勤めるホワイトカラーの女性3人にインタビューしたところ、それぞれ30代前半で独身、共通の友人は飲み仲間と一緒にバーに行くことが多かったが、1人は地方に長期出張する必要があり、1人はMBAで勉強しているため余暇が極端に短かかった。
そしてもう1人は「ワイン搭子」に挑戦し始めたのだが、ソーシャルメディアのRED*2にも上海で100人の「ワイン搭子」の募集を投稿し、数千の “いいね “を獲得した。
その後、彼女は週に2回以上「ワイン搭子」を手配して一緒にバーを訪問、数百人のアクティブなサークルを形成しながらREDにお店のレビューを投稿して2万人以上のファンを獲得し、店を訪問するバーのKOL(Key Opinion Leader)*3となった。オフラインの元の友人も輪の中に連れて来られた。

「搭子」の人間関係の特徴

対面での付き合いが目的なら、なぜ友達ではないのか?「搭子」には深い共感と軽い絆の両方が必要だからだ。

相互「搭子」は通常、お互いに興味のある分野でのみ深い交流を持つ。暗黙の礼儀感覚、分野の境界線の感覚と、新鮮さの追求により、お互いにその分野に関係のない話題を尋ねないようにしている。強い共感と軽い絆は矛盾しているように見えるかもしれないが、どちらか一方がなければ成り立たない。

つまり、純粋な「搭子」の関係では、「興味分野」と「友人関係の構築」は完全に二極化している。人々は興味分野では高度なハートフルさを志向し、友人関係の構築ではのらりくらりとなりがちだ。つまり、「搭子」が他の人間関係と違うのは、“軽くて強い”ということなのだ。

「搭子」における人間関係の重要な要素

1)「一人っ子」の独立性は、孤独や人混みへの恐怖につながる

現在の中国の20代、30代の若者は、国の家族計画政策の影響で、ほとんどが一人っ子であり、兄弟姉妹と一緒に過ごす機会がない。 個人の自立を強調し、まず自分であり、その上でパートナー、友人、子供、親であるという考えを持つ傾向にある。他人よりも自分を愛するという概念は、自己意識を強化し、個人の優先順位を高める。交友関係を求めるのは、一般的に社会的あるいは生物学的な属性というよりも、特別な興味など、特定のニーズによるものである。「搭子」の関係とは、血縁や親族関係以外の、強い関係構築の論理への修正と回帰であるとも言える。

また、たいていの人は様々なソーシャル・ネットワーキング・アプリで常に人とつながっている環境にあり、一般的に「一人だけど一人じゃない」ことに孤独を感じつつ、内心では「一人だけど一人じゃない」状態に憧れていることがわかった。「搭子」の関係という限られた交友関係は、孤独にならずに一人になりたい、自己の境界線を失いたくないというこの欲求に応えるものである。

2)強い人間関係への抵抗・恐怖は、表面的な関係、真剣さへの恐怖につながる

都市化は急速に発展する中国社会の大きな特徴であり、都市化の基本的特徴のひとつは匿名性であり、都市社会は通常、他人の社会である。
都市化という状況の中で、若者は人間関係、特に強い人間関係にほとんど関心がないか、必要性を感じていないか、強い人間関係を築いたり維持したりするための資本や能力を持っていないと感じている。
しかし、多くの場合、意味を追求する必要があるのが人間の本性だ。仕事における意味、人生における意味、生きる意味。そのため、人はあまりに機械的に生きること、空虚にやり過ごすことを許さない。

質の高い「搭子」が伴えば、深く抑制の効いたやりとりは、若者の“心の空虚さ”と“荷物の過積載”とのバランスを的確に取ることができる。不安定な環境、急速なテクノロジーの革新、多様化するライフスタイルは、より多くの不確実性と可能性を生み出している。そして中国の経済発展が減速したポストパンデミックの時代には、誰もがあらゆる不安に直面し、現在に対処することでエネルギーを使い果たしている。

しかし、安定感を求めるのも人間の性である。“注重当下(現在に集中する)”という流行語は、将来の計画を立てたくないからではなく、将来があまりに不安定だからである。それができないなら、あまり先のことを考えずに今を楽しんだ方がいい。しかし実際に私たちは皆、人生のコントロール感を切望している。

したがって、表面的には、新しい友人を作ったり恋愛したりすることを拒否して、「搭子」を積極的に選ぶ若者が増えているように見える。つまりこれは、受動的な妥協の末の現時点での最適解なのだ。「搭子」をすれば、適度なエネルギーを投入するだけで、同時に自分自身を完全にコントロールすることができる。

Z世代の社交関係とブランド・エンゲージメントへの示唆

シェアリング・エコノミーからシェアリング・エモーションまで、このようなトレンドに対応した若い消費者とのコミュニケーション方法を考えることは、あらゆる業界やブランドにとって優先事項となっている。

滴滴出行(ディディ:中国のライドシェア)の相乗りサービスから、マクドナルドの「2杯目半額」、拼多多(ピンドゥオドゥオ:中国の安売り通販サイト)の友人を誘っての共同購入システムなど、シェアリングエコノミー・マーケティングは数年前から実践されており、消費者にとっては確かに利益を得られるものの、そのプロセスには見知らぬ他人との社会的恥ずかしさや社会的圧力、社会的消費が伴うことが多い。

もし私たちがこのような、「圏層社交」と「搭子」の背後にある深層心理と感情的価値を正確に捉えることができれば、ブランドは現代のZ世代の若者達の感情的ニーズをより正確に理解し、コミュニケーションとマーケティングのより効果的なアプローチの方向性を見出すことができるのではないだろうか。
特に日本の企業やブランドが中国の若い消費者と対峙する場合、文化、伝統、消費習慣、市場特性などのギャップを超える必要性に加えて、彼らの今の動向や社交スタイルをタイムリーに把握し、より的確にインサイトと整合させて活用し、より効果的で強力なコミュニケーション方法に挑戦する必要があるだろう。

  1. https://m.yicai.com/news/101734003.html, https://manamina.valuesccg.com/articles/2764 ↩︎
  2. RED: 中国版インスタグラムと呼ばれているSNSアプリ「小紅書」のこと ↩︎
  3. KOLはKey Opinion Leaderの略で、中国のインフルエンサーを意味する。多くの企業はKOLと提携し、商品の宣伝やマーケティングに積極的に活用しており、彼らの意見や推奨は中国の消費者にとって非常に重要な要素となっている。 ↩︎

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