
WPP、持株会社モデルから事業領域別グループへの転換
英国に本拠を置く世界的広告グループWPPは、大規模な戦略見直しを進めている。同社は長年採用してきた持株会社型の組織モデルを見直し、より統合された単一企業体への転換を目指す方針を示した。再編の中心となるのが「Elevate28」と名付けられた中期計画である。
この方針の背景には業績の悪化がある。2025年第4四半期の既存事業売上高(パススルーコストを除く)は前年同期比で6.9%減少し、通年でも5.4%の減収となった。さらに2026年前半も既存事業売上高は一桁台半ばから後半のマイナスで推移すると見込まれている。こうした状況を受け、同社は組織構造そのものを見直し、複雑化したネットワークを整理しながら統合運営へと舵を切ろうとしている。
「Elevate28」による組織再編
Elevate28計画では、これまで多数のブランドや代理店によって構成されていたネットワークを4つの主要事業部門に再編する。新たな体制では、メディア事業を担う「WPP Media」、クリエイティブ領域を統合する「WPP Creative」、制作機能を束ねる「WPP Production」、そして顧客体験やコマース、CRM、データ技術などを統合する「WPP Enterprise Solutions」という4部門が軸となる。これらの部門は北米、ラテンアメリカ、欧州・中東・アフリカ、アジア太平洋といった地域を横断して展開される。
メディア部門であるWPP Mediaは、旧メディア投資部門のGroupMを再編・リブランディングする形で設立された。一方、制作領域を担うWPP Productionは2026年1月に発表された部門であり、コンテンツ制作企業であるHogarth Worldwideなど既存の制作ネットワークを統合している。
また、新設されたWPP Creativeはクリエイティブ、PR、デザイン事業を横断的にまとめる部門である。各エージェンシーの文化や個性は維持しながら、共通の運営基盤を導入することで組織内の摩擦を減らし、より効率的な協働体制を構築する狙いがある。さらにWPP Enterprise Solutionsは、顧客体験(CX)、コマース、CRM、コンテンツ変革、データおよびテクノロジー機能を統合し、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する役割を担う。
AI基盤「WPP Open」を軸にした統合モデル
新体制の中心となるのが、AIを活用したオペレーティングシステムWPP Openである。このプラットフォームはメディア、データ、クリエイティブ、テクノロジーを横断して統合する基盤として設計されており、各部門が共通のシステム上で連携することを可能にする。
WPPは近年、人工知能とデータ領域への投資を強化しており、2024年にはデータコラボレーション企業のInfoSumを買収している。これにより、データ駆動型マーケティングの能力を高め、クライアントに対する統合サービスを強化している。
こうした動きは、広告業界全体が大きな転換期にあることを示している。AI技術の急速な進展、クライアント企業のニーズの高度化、さらには世界経済の不確実性が重なり、従来の広告代理店モデルは再構築を迫られている。競合であるOmnicom Groupなども同様に、従来型のビジネスモデルからの転換を模索している。
成長回帰を目指す中期戦略
2025年9月にCEOに就任したCindy Roseは、今回の改革の背景として組織の複雑化を挙げている。同氏は声明の中で、近年の業績不振は「過度に複雑な組織構造、統合された運営モデルの不足、そして戦略実行の一貫性の欠如」に起因していると説明した。
Elevate28計画では段階的な回復シナリオが描かれている。まず2026年に事業の安定化を図り、2027年には成長の勢いを回復させ、その後2028年以降には高品質な持続的成長へと回帰することを目指す。再編によって年間約5億ポンドのコスト削減を実現し、その資金をメディア、コマース、そして高速コンテンツ制作などの成長分野に再投資する計画である。
さらに同社は、新たな人材フレームワークの導入も進めている。これは「ハイパフォーマンス文化」の構築を目的としたものであり、従業員の目標やインセンティブをクライアントの成果や企業全体の成功と結び付ける仕組みを整備するものだ。
ローズCEOは、同社が持つ人材、データ、テクノロジー、そしてグローバル規模の顧客基盤を組み合わせることで、変化の激しい市場環境の中でも競争力を発揮できると強調している。こうした改革を通じて、WPPは次の成長段階へと移行しようとしている。(出典:MARKETING DIVE、画像:iStock)
















