Sonos、復活に向けブランドを再定位 スペックではなく「音が生む体験」を訴求

プレミアムオーディオメーカーのSonosが、ブランドコミュニケーションの軸を大きく転換している。これまで前面に出してきた音響技術や製品スペックから距離を置き、音楽が暮らしの中で生み出す感情や、その場の空気まで含めた体験を語る方向へと舵を切った。
新たなグローバルブランドキャンペーン「Love the Sound. Feel the System」は、こうした再定位を象徴するものだ。スピーカーやヘッドホンの性能を細かく説明するのではなく、それらが家庭のさまざまな場所でどのように機能し、人の気分や時間をどのように変えるのかを描いている。

キャンペーンでは、手描きのイラストや図解を使いながら、Sonosの製品が「リビングルームに感動を」「ベッドルームに愛を」もたらすといった情緒的なメッセージを展開する。動画、ポッドキャスト、印刷物、ソーシャルメディアに加え、ニューヨークで大規模な屋外広告も展開する。

今回の取り組みは、単なる広告キャンペーンではない。Sonos自身が「企業のポジショニングを見直し、その延長としてブランドを刷新する」取り組みと位置づけている。新製品の「Ace Ultra」ヘッドホンと「Beam Ultra」コンパクトサウンドバーの投入も、この新しいブランド戦略と連動している。

Sonosは現在、約2年前に実施したソフトウェアアップデートをめぐる混乱からの立て直しを進めている。顧客の反発を招いたアップデートは業績やブランドへの信頼にも影響し、株価の下落やCEO交代につながった。今回のブランド再定位には、製品と企業そのものに対する顧客との関係を改めて築き直す狙いもある。

「精密な音響」から「暮らしの中の感情」へ

「Love the Sound. Feel the System」が特徴的なのは、Sonosを単体の高性能オーディオ機器としてではなく、家庭全体に音楽体験を広げるシステムとして捉え直している点である。
キッチンで料理をしながら音楽を聴く。リビングで家族と時間を過ごす。ベッドルームで一人の時間を楽しむ。こうした日常の場面にSonosが入り込み、空間そのものの雰囲気を変える存在として描かれている。

SonosのCMO、コリーン・デコーシーは、今回のブランド転換について、アーリーアダプターだけでなく、より幅広い層へ訴求すること、そしてSonosが本来得意としてきた領域に立ち返ることで長年の顧客との関係を取り戻すことが優先事項だと説明している。離れてしまった顧客に対して、Sonosが持っていた独自性や、同ブランドが長く支持されてきた理由を改めて思い出してもらうことも狙いである。

クリエイティブには、手作り感のあるアートワークやダンスカード、図解などを取り入れた。オーディオマニアに向けて音響性能を細かく説明するのではなく、製品開発に込められた細かな配慮を、より直感的に伝えるアプローチである。
新しい30秒CMでは、従来型のオーディオ広告とは異なる強い言葉も使われている。「精密に調整された音響」やソフトウェアによる分析を説明するのではなく、音楽が人の感情を直接揺さぶる存在であることを強調する内容だ。

こうした方向性は、Sonosがオーディオ機器のスペック競争から完全に離れることを意味するものではない。むしろ、高い技術力を前提としながら、それを消費者に伝える順番を変えたと見ることができる。性能そのものをブランドの主役にするのではなく、その性能によって家庭でどんな時間が生まれるのかを先に語るのである。

ニューヨークで展開されるOOHも、この考え方を具体化している。ウェストフィールド・ワールドトレードセンター、モイニハン・トレイン・ホール、ペン・ステーションの地下鉄広告、ブルックリン・ウィリアムズバーグのペイント看板など、街のさまざまな場所を活用。ゲリラ的な貼り紙、街頭パネル、デジタルプロジェクションなども組み合わせ、キャンペーン自体を都市空間の体験へと広げている。

ハードウェアだけでなく、ソフトウェア面でもSonosは進化を続けている。最近リリースした「Sonos 27」では、音楽やそのときのムードに合った選曲を支援する音声アシスタントなど、AIやエージェントを活用した機能を追加した。

ソフトウェア問題からの再起を、ブランドとの関係再構築につなげる

今回のブランド再定位を考えるうえで、Sonosが過去2年間に経験した問題は無視できない。
約2年前、同社は大規模なソフトウェア変更を実施したが、数多くの不具合が発生し、既存ユーザーから強い反発を受けた。Sonos自身は、この問題によって約1億ドルの売上高を失ったと推計している。一方、株価の動向なども加味したウォール・ストリート・ジャーナルの分析では、影響額は5億ドル近くに達した可能性があるとされる。

この混乱のさなか、当時のCEOだったパトリック・スペンスは辞任した。製品の品質だけでなく、長年Sonosを支持してきた顧客との信頼関係にも影響を及ぼしたことが、今回のブランド再構築の背景にある。

その後、Sonosではマーケティング体制も刷新された。デコーシーは元Snapのマーケティング担当者で、ワイデン・アンド・ケネディでもクリエイティブ領域の経験を持つ人物であり、2025年11月にCMOへ就任した。
さらに2026年夏には、クリエイティブディレクターのリーニー・シャーとケンドラ・イアシュ、クリエイティブプロダクションディレクターのキャメロン・フォード、ブランドデザインリードのラケル・スコギン、ストラテジストのザック・ギャラガーとジャネット・シーら、マーケティング領域の人材を相次いで採用している。

一方、事業そのものには回復の兆しも見えている。2026年6月27日に終了した第3四半期の売上高は前年同期比9%増の3億7500万ドルとなった。Sonosは顧客からのフィードバックを製品改善に活用する取り組みも進めている。
決算説明会では今後の成長戦略も示され、その柱の一つとして「より意図的なマーケティング」が挙げられた。トム・コンラッドCEOは、今回の秋のマーケティング活動について、Sonosがなぜ世界で唯一無二の存在なのかを、この10年で最も明確に表現する取り組みだと説明している。

ここで注目すべきなのは、Sonosが復活のために単純な「高性能オーディオブランド」への回帰を選んでいないことである。
むしろ、技術力や製品性能を当然の土台としたうえで、それが人々の生活の中でどのような感情や時間を生み出すのかをブランドの中心に置こうとしている。顧客が製品を購入する理由をスペック表の中だけに求めるのではなく、「その音とともにどんな時間を過ごしたいか」という生活者側の視点からブランドを再構築するアプローチである。

ソフトウェア問題によって損なわれた信頼を回復するには、製品の改善だけでなく、顧客がSonosをどのようなブランドとして再認識するかも重要になる。今回の「Love the Sound. Feel the System」は、製品そのものを売るコミュニケーションから、Sonosがある生活の価値を伝えるコミュニケーションへの転換であり、その意味で同社の再起を象徴するブランド戦略といえる。( 出典:MARKETING DIVE、画像:Sonos)

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