
三菱自動車、パジェロを7年ぶりに復活 100カ国展開で中国勢に挑む
三菱自動車は9月2日、同社を代表するSUV「パジェロ」の新型モデルを世界初披露した。国内での生産・販売を2019年に終了して以来、約7年ぶりの復活となる。かつて三菱自動車のブランドを象徴した車種を再投入し、オフロード性能を武器に、東南アジアをはじめ世界各地で存在感を取り戻す狙いである。
新型パジェロは5代目にあたるモデルで、10月からまず生産拠点であるタイで販売を開始する。その後、中東や中南米などを含む約100の国・地域へ順次展開する計画だ。日本では10月1日に予約受付を開始し、12月17日に発売する。国内価格は10月29日に公表する予定である。
東京都内で開かれた発表会で、三菱自動車の岸浦恵介社長は、新型パジェロを「三菱自動車のブランドをけん引するフラッグシップモデル」と位置づけた。世界販売については、2026年度内に1万台を目標としている。
新型車の開発では、パジェロが長年培ってきた四輪駆動技術を現代的に進化させた。路面状況に応じて4輪それぞれの回転数や駆動力を電子制御するシステムを採用し、雪道や砂漠など7種類の走行モードを設定。四輪駆動車でありながら小回りの利きやすさも追求した。
パワートレーンには、ピックアップトラックに搭載しているディーゼルエンジンを改良したものを採用し、駆動力を高めている。足回りや車体には悪路を走破するための耐久性を持たせる一方、インテリアでは従来のオフロード車とは異なる高級感を意識した。全ドアに遮音ガラスを採用するなど、車内の静粛性にも配慮しており、悪路を走るための機能性と、舗装路での快適性を一台にまとめたことが特徴である。

RVブームの象徴から、プレミアムSUVへ
パジェロは1990年代の多目的レジャー車、いわゆるRVブームをけん引した代表的なモデルである。国内販売が最も伸びた時期には年間8万台を超える台数を記録し、三菱自動車のブランドを象徴する存在となった。
しかし、その後は競争環境の変化や三菱自動車の相次ぐ不祥事などによって商品開発が遅れた。トヨタ自動車の「ランドクルーザー」シリーズをはじめとする競合車の存在感も高まり、パジェロの販売は徐々に縮小。国内販売終了を控えた2018年度には年間約600台まで落ち込んでいた。
今回の新型モデルは、ランドクルーザーの主要モデル「250」とほぼ同じクラスのボディサイズとなる。一方で、三菱自動車は操作性の高さや舗装路での走りやすさを訴求し、従来の本格オフロード車とは異なる価値を打ち出す。
価格帯もプレミアム領域を狙っており、ランドクルーザー250の577万円を上回る水準になる見通しである。単なる「復刻モデル」ではなく、ブランドの再構築を担う戦略車として位置づけられている。
背景には、三菱自動車そのものの販売力低下がある。同社の世界販売台数はピークだった2018年度の124万台から減少が続き、2025年度には79万台となった。特に得意としてきた東南アジアでは、中国メーカーとの競争激化や景気悪化などを背景に販売が伸び悩んでいる。さらに足元では、中東情勢の悪化を背景としたガソリン価格の上昇もあり、電気自動車(EV)を武器に市場を広げる中国メーカーの攻勢を受けている。
こうした状況に対し、三菱自動車は知名度の高いパジェロを再投入することで、「四駆やオフロード車に強いメーカー」というブランドイメージを改めて確立しようとしている。
岸浦社長は、中国メーカーが輸出や現地生産を積極的に拡大するなかで競争するには、価格だけでなくブランド価値が重要になるとの考えを示している。パジェロは、そのブランド価値を象徴する存在として期待されている。
三菱自動車は5月に発表した中長期ビジョンでも、四輪駆動技術とハイブリッド車(HV)を中心とする電動化技術に経営資源を集中する方針を打ち出した。寒冷地や高温多湿な地域でも安定して走行できるオフロード車については、日本メーカーが長年にわたって実績を積み重ねており、中国メーカーに対して一定のブランド優位性を持つとみている。

オフロードSUV市場拡大、中国勢も本格参入
三菱自動車は今後の商品戦略でも、オフロード車を重要な成長領域に据える。2031年度までに投入する13車種のうち、7車種をオフロード系モデルとする計画だ。
従来の小型車中心の販売構成から、SUVやピックアップトラックなどへ重点を移すことで、1台当たりの収益性を高める狙いもある。パジェロはこの戦略を象徴するモデルであり、2030年ごろまでには中型SUVと小型SUVも追加投入する予定である。
三菱自動車によれば、世界のオフロードSUV市場は拡大が続く見通しだ。2030年度には年間需要が660万台に達し、10年間で約8割増えると予測している。一方で、参入する車種も増加し、世界のオフロードSUVの車種数は約4割増の163車種に達する見込みである。
つまり、成長市場である一方、競争も激しくなる。特にこれまでブランド力の面で日本メーカーに及ばないとみられていた中国勢が、オフロードSUV分野でも急速に存在感を高めている。
長城汽車は「タンク」ブランドのオフロードSUVを世界各地で展開しており、2023年には海外輸出の重要拠点としてタイでの生産も開始した。マークラインズのデータによると、タンクシリーズの2025年の世界販売台数は約20万台に達し、トヨタのランドクルーザーに迫る規模となっている。
さらに、比亜迪(BYD)や吉利汽車などもEVやプラグインハイブリッド車(PHV)をベースにしたオフロードモデルを相次いで投入し始めている。これまで内燃機関を中心として発展してきたオフロード車市場にも、中国メーカーの電動化技術が入り込み始めた格好である。
三菱自動車にとって、パジェロ復活は知名度の高いブランドを再び市場に投入するだけではない。オフロードSUVという成長市場で、長年培ってきた四輪駆動技術とブランド力を組み合わせ、中国勢や既存の強豪メーカーと競争するための重要な一手である。
ただし、かつてパジェロを支持した顧客層は大きく変化している。パジェロ人気がピークだった時代の主要な購入者は、現在では60代を超える世代となっている。ブランドへの懐かしさだけでは、今後の販売を大きく伸ばすことは難しい。
新型パジェロが本格的な復活を遂げるためには、従来のファンを取り戻すだけでなく、若年層を含む新しい顧客に「なぜ今、パジェロなのか」という理由を提示できるかが重要になる。
かつてRVブームの象徴だったパジェロは、今度は中国メーカーがEVを武器に攻勢をかける新たなSUV市場に戻ってきた。三菱自動車が過去のブランド資産を現代の技術と組み合わせ、世界市場でどこまで競争力を取り戻せるか。その成否は、パジェロという一車種だけでなく、三菱自動車そのもののブランド再生を占う試金石となりそうだ。(出典・画像:三菱自動車、日本経済新聞、共同通信)
















