なぜ今、体験型マーケティングが再評価されているのか

デジタル広告の競争激化や消費者の情報過多が進むなか、企業と顧客の関係構築において「体験」の価値が改めて注目されている。価格変動や経済環境の不透明感が続く一方で、人々はモノだけでなく、記憶や感情に残る体験に価値を見出している。

調査によれば、ライブイベントに参加した消費者の85%が、その後そのブランドの商品やサービスを購入する可能性が高まると回答している。また、約9割の消費者が、ブランド体験はテレビ広告よりも記憶に残りやすいと感じている。

こうした背景から、多くの企業が体験型マーケティングへの投資を拡大している。たとえば、ピザハットはロイヤルティプログラムを体験重視の仕組みへ刷新し、ハイネケンもFIFAワールドカップを活用した参加型キャンペーンを展開している。

体験型マーケティングエージェンシー「Sparks」の社長メリッサ・レヴィ氏は、「ブランドへの愛着やロイヤルティを育むには感情的な結びつきが不可欠であり、その役割を果たせるのが体験型マーケティングである」と指摘する。

体験型マーケティングを後押しする3つの社会変化

レヴィ氏によれば、体験型マーケティングの重要性が高まっている背景には、主に3つの消費者行動の変化がある。

SNS時代の「共有したくなる体験」:InstagramやTikTokの普及によって、人々は体験そのものだけでなく、それを撮影し共有することにも価値を感じるようになった。レストランのフォトスポットやイベント会場の演出空間など、「写真に収めたくなる場所」は今や日常的な存在となっている。ブランド体験は、現場で完結するものではなく、SNSを通じて二次的・三次的に拡散されるメディアへと進化しているのである。

パンデミック後のリアル回帰:新型コロナウイルスによる長期間の行動制限は、人々の生活様式に大きな影響を与えた。長く続いたオンライン中心の生活を経て、現在はリアルな場での交流や体験を求める動きが強まっている。消費者は画面越しの接触だけでは満足せず、実際に足を運び、人と会い、空間を共有することに価値を感じ始めている。

スポーツが生み出すコミュニティ:スポーツの人気拡大も体験型マーケティングを後押ししている。デジタルメディアの細分化が進むなか、スポーツは依然として大規模な共感と熱狂を生み出せる数少ない領域である。チームや選手を応援する感情、試合を共に観戦する時間、勝敗を分かち合う体験は、人々の強い帰属意識やコミュニティ意識を形成する。企業にとってスポーツは、メディアとリアル体験が融合する貴重な接点となっている。

成果測定と組織課題―体験型マーケティングを成功させる条件

体験型マーケティングが拡大する一方で、その効果測定は依然として大きな課題である。デジタル広告ではROAS(広告費用対効果)やクリック率など詳細な指標が利用できるが、体験型施策は短期的な成果だけでは評価しにくい。重要なのは、認知度向上、ブランド好意度、購入意向、ロイヤルティといった中長期的なブランド指標である。

レヴィ氏は、体験型マーケティングを単なるイベント施策としてではなく、ブランド価値を高める長期的投資として捉えるべきだと主張する。消費者との接触を通じて信頼や愛着を醸成し、それが将来的な購入や継続利用につながるという考え方である。

また、企業内部では調達部門との連携も重要なテーマとなっている。体験型マーケティングでは、イベント運営や展示会設営など物理的な要素が多いため、調達部門が深く関与するケースが少なくない。しかし、価格や制作コストだけで判断すると、本来の価値である戦略性や創造性が軽視される恐れがある。

体験型施策は単なる制作物ではなく、戦略から実行までを含む総合的なクリエイティブ活動である。調達部門にはサービスや知的価値を適切に評価する視点が求められ、マーケティング部門もその価値を社内で説明する責任を負う。価格競争だけを重視すれば、創造性は失われる。体験型マーケティングを成功させるためには、企業全体がその価値を理解し、ブランド構築の重要な投資として位置付けることが不可欠なのである。(出典:Marketing Dive、画像:Getty Images)

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