
マクドナルドがFIFAワールドカップのスポンサーを終了 スポーツマーケティングの転換点に
マクドナルドが、30年以上続けてきたFIFAワールドカップの公式スポンサーから退くことを明らかにした。今回の決定は、単に大型スポーツイベントへの協賛を見直すだけでなく、同社のマーケティング投資の考え方が変化していることを示している。世界規模の大会に巨額の資金を投じる従来型のスポンサーシップから、地域やファンとの継続的な接点を重視する戦略へと軸足を移す動きだ。この変化は、クイックサービスレストラン(QSR)業界の競合各社にも影響を及ぼす可能性がある。
マクドナルドのグローバル最高マーケティング責任者兼新規事業担当責任者であるモーガン・フラットリー氏は、今後もスポーツやカルチャーをファンとの関係構築に活用していく方針を示した。そのうえで、年間を通じて消費者とのつながりを生み出す、マクドナルド独自の体験づくりに注力すると説明している。
同社がFIFAワールドカップの公式スポンサーになったのは1994年である。2026年大会に向けては、サッカー選手とのコラボレーションやコレクターズカップ、参加型の体験企画などを組み合わせ、100を超える市場でキャンペーンを展開した。マクドナルドにとって、ワールドカップ関連では過去最大規模のマーケティング施策だった。
調査会社カンターのデータによると、このキャンペーンはマクドナルドのネット・プロモーター・スコア(NPS)を押し上げ、若年層の間でSNS上の話題を生み出す効果もあった。一方、2026年第2四半期の既存店売上高は前年同期比0.8%増にとどまった。来店客数の減少が業績の重荷となり、同社は来店客数の減少分の3分の1をワールドカップキャンペーンに関連するものと捉えている。
CFOのイアン・ボーデン氏は決算説明会で、キャンペーンが事業に一定の追い風をもたらし、店舗全体に大きな盛り上がりを生んだことを認めつつも、当初の期待には届かなかったと述べた。
今回の撤退は、キャンペーンの成果だけを理由とするものではない。スポーツマーケティングやメディア環境の変化も背景にあると考えられる。FIFAワールドカップのような世界的大会は、数十億人規模の消費者に一度にリーチできる貴重な機会である。しかし、スポンサーの権利を得るだけでは十分ではない。テレビやデジタル、SNSなど複数のプラットフォームで展開するコンテンツを制作し、消費者との接点に変えるには、追加の大規模な投資が必要になる。
スポーツスポンサーシップ分析会社SponsorUnitedの創業者兼CEO、ボブ・リンチ氏は、権利保有者が提供するのはあくまでプラットフォームであり、それを効果的に活用する責任はブランド側にあると指摘する。FIFAへの協賛金とは別に、スポンサーシップを実際のマーケティング施策として機能させるため、さらに7,000万〜1億ドル程度の費用が必要になる可能性があるという。企業にとっては、巨額の権利料だけでなく、それを生かすための実行体制や追加予算も含めて投資判断を行う必要がある。


世界大会から地域密着型のスポーツ協賛へ
FIFAワールドカップの公式スポンサーを終了する一方、マクドナルドはサッカーやスポーツ全般への投資を続ける方針だ。すでにフランスのサッカーリーグ「リーグ・アン」とスポンサー契約を結んでいるほか、米メジャーリーグサッカー(MLS)のシカゴ・ファイアFCとも提携している。この協業では、米国の主要プロスポーツ施設において、マクドナルドが初めて命名権パートナーとなる。そのほか、長年続けている青少年向けの「オール・アメリカン・ゲームズ」プログラムや、ラテンアメリカにおけるF1との地域パートナーシップにも取り組んでいる。
SponsorUnitedのデータによれば、マクドナルドは個別のスポーツチームやアスリートとも数百件の提携を結んでいる。北米のチームスポーツにおけるQSRカテゴリーでは、スポンサー投資額がチックフィレイに次ぐ規模だという。
こうした地域や個別のチームに焦点を当てた協賛は、世界大会への一括投資とは異なる柔軟性を持つ。マクドナルドは2026年大会のサイクルだけで、FIFAとのパートナーシップに約8,000万ドルを投じたとされる。今後、こうした予算を複数の小規模な提携に振り分ければ、地域やターゲット層に応じて施策を調整しやすくなる可能性がある。
一方、個別の提携を増やすことには運営上の負担も伴う。ある業界関係者は、複数の施策を並行して実施することで、マクドナルドはさまざまなプログラムを大規模にテストできるようになる一方、管理すべき案件が増え、マーケティングチームの業務が複雑になる可能性を指摘している。
同社は現在、ファンを中心に据えた体験づくりを軸に、新たなマーケティング機会を探っている。自社ブランドや知的財産(IP)を活用し、地域に根差した活動とグローバルな展開力を両立させながら、年間を通じて消費者との関係を築く方針だ。これは、マクドナルドが2026年6月に公表し、9月の投資家向け説明会で詳細を説明した新たなマーケティング戦略の一環でもある。
QSR業界にも広がるスポンサーシップ戦略の変化
マクドナルドがFIFAのスポンサーから退くことで、同大会のスポンサー枠には空きが生まれる。しかし、競合するQSR企業がその枠を引き継ぐという単純な展開になるとは限らない。世界的な大会のスポンサーになるには巨額の協賛金が必要であり、さらにキャンペーンの制作や各国での展開にも多額の費用がかかるからだ。
むしろ注目すべきなのは、マクドナルドがこれまでFIFAに投じていた予算を、今後どのような領域に振り向けるかという点である。地域スポーツや個別チームとの協業、ファン参加型のイベントなどに投資が広がれば、競合各社が活動する市場にも変化が生じる可能性がある。
リンチ氏は、マクドナルドがこれまで他社の活動領域だったスポーツマーケティングの分野にも、今後は資金を投じられるようになると指摘する。その結果、QSRカテゴリー内での競争環境に新たな動きが生まれるとの見方を示した。
今回の決定は、マクドナルドがスポーツマーケティングそのものから撤退することを意味しない。世界規模の大会に巨額を投じるモデルから、地域やファンとの関係を継続的に育てるモデルへと、投資の配分を見直す動きと捉えられる。スポーツスポンサーシップの価値が、露出規模だけでなく、実際の体験や顧客との関係構築によって評価される時代に入りつつある。(出典:MARKETING DIVE、画像:マクドナルド)
















