
AppleとMetaのAI提携が広告制作を変える Mac上で動く新モデルが切り開く可能性
AppleとMetaが、Mac上で動作することを想定した新たなオープンAIモデルを発表した。発表に合わせて公開されたのは、Meta Superintelligence Labsの最高AI責任者兼創設者であるアレクサンドル・ワン氏が関わった映像作品だ。そこでは、1984年に初代Macintoshの発表に合わせて制作されたAppleの象徴的な広告を、Metaのキャラクター「ミューズ」を登場させる形で再構成している。
ワン氏はXへの投稿で「なぜ2026年は1984年のような年にならないのか」と問いかけた。新しい映像は、ディストピア的な未来への移行ではなく、別の可能性を持つ未来への転換を表現したものとして位置づけられている。
オリジナルの広告は、広告会社TBWA\Chiat\Dayが制作した。ジョージ・オーウェルの小説『1984』を想起させる世界観を通じて、Macintoshの登場を印象づけた作品として知られる。今回の映像は、その歴史的な広告表現を現代のAI技術と結びつけた試みである。
この提携が広告業界にすぐさま新たな広告料金やフォーマットをもたらすわけではない。しかし、広告制作のためのソフトウェアやクリエイティブツール、広告配信を支えるシステムのあり方が変わりつつあることを示している。広告主にとっては、端末上でのクリエイティブ制作と、クラウドを基盤とするAIエージェントの活用が結びつくことで、広告のつくり方や消費者との接点に変化が生まれる可能性がある。
Mac上で進むAIによる広告制作の自動化
今回の協業で広告主が早期に実感できると考えられるのは、広告枠の価格やCPM(広告表示1,000回あたりの費用)の変化よりも、クリエイティブ制作の効率化である。
Metaは、テスト段階で新モデルをDaVinci Resolveのような高機能な動画編集ソフトウェアと組み合わせ、映像素材の確認やトリミング、編集といった作業を端末上で自動的に処理できたと説明している。これにより、制作担当者が手作業で進めていた工程の一部をAIに任せ、制作プロセスを効率化できる可能性がある。提携に伴い、AppleはMac向けの機械学習ツールキット「MLX」を更新し、MetaのモデルがMac上で円滑に動作するよう対応を進めた。
報道によると、このモデルは「Meta Muse Spark Open」と呼ばれ、コーディングや複数段階にわたるエージェント型ワークフローを想定した、8,160億パラメータのマルチモーダルモデルである。少なくとも2台のApple Mac Studioを接続した高性能な環境で、ローカル実行が可能とされる。
同モデルは、プログラミングの支援に加え、複雑な作業を自律的に進めるAIエージェントの実行にも対応する。Metaは、多くの開発者が無料で利用できるようにする一方、商用利用については一定の条件を設ける方針を示した。
広告制作の現場では、映像の編集や素材の整理、複数の制作工程をまたぐ作業などにAIエージェントを活用することで、時間や人員の使い方を見直せる可能性がある。今回のモデルが実用化されれば、クリエイティブ制作の一部をローカル環境で処理しながら、より複雑なタスクをAIに任せる仕組みが広がることも考えられる。

急増するAIエージェントのトラフィック
AIエージェントの利用拡大は、クラウド上のトラフィックにも表れている。AIエージェントの監視を手がけるDataDomeは、2026年第3四半期にAIエージェントによるトラフィックが41.5%増加したと報告した。同社のデータによると、MetaのMuseエージェントは12日間で2,900万件のリクエストを発生させた。ただし、そのほぼすべてが個人の端末ではなく、クラウドインフラから送信されたものだったという。
また、9月のエージェントによるブラウザトラフィックは4.7倍に拡大し、リクエスト数は1,250万件から5,820万件へ増加した。Museを除いた場合でも、リクエスト数は3倍の3,870万件に達したとDataDomeは説明している。
同社のネットワークが2026年第3四半期に処理したAIエージェントからのリクエストは、約250億件に上った。第2四半期の177億件から大きく増加した計算となる。
企業別では、Metaが124億件のリクエストを生成し、全体の約49.7%を占めて首位を維持した。構成比は第2四半期の51.5%からやや低下したものの、Metaのエージェントによるリクエスト数は47%を超える伸びを示している。
こうしたデータは、AIエージェントが単なる実験的な技術にとどまらず、ウェブ上で大量の処理を実行する存在になりつつあることを示している。AppleのハードウェアとMetaのAIモデルを組み合わせる今回の取り組みも、AIを活用した制作環境の変化という流れの中に位置づけられる。
広告主にとって今後の焦点となるのは、AIによって制作時間やコストをどこまで削減できるかだけではない。ローカル環境での処理とクラウド上のエージェントをどう組み合わせ、制作の質や運用効率を高めるかが重要になる。今回の提携が広告制作や消費者の広告体験にどのような影響を与えるかは、モデルの実用化と具体的な活用事例を通じて見極める必要がある。(出典:MediaPost、画像:Meta、Apple)
















