
Jeep、「This Is Jeep Country」で新たなブランド戦略 愛国心と多文化性をつなぐ
ステランティス傘下のSUVブランド、Jeepが新たなマーケティングの方向性を打ち出している。9月に始動した「This Is Jeep Country」は、Jeepが85年にわたって築いてきたアメリカとの結びつきを前面に出しながら、異なる文化的背景を持つ生活者にもメッセージを広げるキャンペーンである。
今回の取り組みは、米国建国250周年に合わせて過去1年間展開してきた一連の活動を発展させたものでもある。制作を担当したのは、長年Jeepのブランドパートナーを務めるHighdiveだ。同社は今回、Jeepの「アメリカらしさ」を単純に強調するのではなく、その歴史を現在の社会にどう接続するかという新しい表現方法を探った。
Highdiveのクリエイティブディレクター、ジェレミー・アダムスが着目したのは、「アメリカこそがJeepブランドにとって最初の顧客だった」という考え方だった。この言葉には、単なる広告上の主張ではなく、Jeepの歴史そのものに根差した事実としての強さがあると考えたという。
メインCMは、Jeepの歩みと米国の歴史を重ね合わせる構成となっている。戦地へ向かうJeepを映したモノクロのアーカイブ映像から始まり、現在撮影された映像や過去の記録、さらにユーザー生成コンテンツ(UGC)を組み合わせていく。独立戦争を想起させる再現シーン、トレーニングに励むボクサー、険しい自然の中を走るJeepなどを通じて、Jeepが持つ冒険や挑戦のイメージを描き出している。
ナレーションでは、長くアメリカのためにつくられてきたJeepが、やがてその国と共通する価値観を持つようになったという趣旨のメッセージが語られる。
Jeepにとって、米国との結びつきはブランドの重要な資産である。Brand Keysの調査でも、Jeepは継続的に「米国で最も愛国的なブランド」の一つとして評価されている。一方、米国では政治的な分断が続き、米国人の自国への誇りも25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。そうした環境の中で、Jeepは愛国心を政治的な立場と結びつけるのではなく、自由、冒険、不屈の精神といった、より広く共有できる価値へと置き換えようとしている。
Jeepの米国広告責任者を5月から務めるリンジー・ダイアー・フィフェルスキは、アメリカの文化や自由、冒険との関係はブランドの核心にあると説明する。そのうえで、Jeepだけでなく、長年にわたって米国社会を形づくってきた自由や粘り強さ、気概そのものを称えることを今回の狙いに掲げた。政治的な議論を無視するのではなく、その中から前向きな側面を見つけ出す姿勢である。
愛国心を一つの文化に閉じず、多文化の物語へ広げる
「This Is Jeep Country」の特徴は、メインキャンペーンだけでなく、異なる文化的背景を持つ消費者に向けた派生コンテンツを用意している点にもある。
ヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人の消費者を対象とした2本の30秒CMでは、それぞれの文化的背景を踏まえながら、愛国心や自由というテーマを描いている。アフリカ系アメリカ人向けの映像では、自由を完成したものではなく、現在も人々がつくり続けているものとして捉えるメッセージを提示。一方、ヒスパニック系向けの作品ではスペイン語を用い、ヒスパニックとしての文化的ルーツとアメリカ人としてのアイデンティティを同時に肯定する表現を採用した。
これらのコンテンツはステランティスのチームが主導し、デジタルおよびオンラインの各チャネルで展開される。
ダイアー・フィフェルスキによれば、黒人消費者向けのクリエイティブでは文化的な背景を深く反映しながら、メインキャンペーンと同じ世界観を維持することを重視した。また、ヒスパニック向けの表現では、ヒスパニックの伝統に対する誇りと、アメリカ人としてのアイデンティティの双方を祝うことを意識したという。
つまり今回のJeepは、「アメリカらしさ」を単一の文化として描くのではなく、さまざまなルーツを持つ人々がそれぞれの立場から参加できるものとして再定義している。政治的な分断が強まる状況で、愛国心を排他的なメッセージにせず、より多くの人が自分自身の物語を重ねられる価値として提示する試みである。
新体制でトーンを刷新、全車種と多様なメディアへ展開
今回のキャンペーンは、ステランティスが5月に発表した5カ年計画の実行と並行して展開されている。同社は計画の実現に向けて約700億ドルを投資する予定である。
経営体制も変化している。アントニオ・フィローザが昨夏にステランティスのCEOへ就任し、ブランデン・コテは8月3日にJeepのCEOとして着任した。また、長年ステランティスの経営陣を担ってきたオリヴィエ・フランソワは、8月にグローバル最高マーケティング責任者を退任した。
ダイアー・フィフェルスキは、こうした新たなリーダーシップの下で、「This Is Jeep Country」がブランドのコミュニケーションにおける微妙なトーンの変化を示すものだと説明する。従来よりも大胆で前向きな表現を採用し、愛国心を重要なテーマとして据えながら、今後のJeepのマーケティングを方向づける位置づけである。
2026年のJeepは、マーベルとの「キャプテン・アメリカ」をめぐる提携など、愛国的な要素を持つ広告を相次いで展開してきた。一方で、ワールドカップへの関心を取り込んだり、コメディを活用したりするなど、表現の幅も広げている。コメディアンのイライザ・シュレシンガーを起用した継続的なキャンペーンや、「ビッグゲームで放映されない最高のビッグゲームCM」と銘打った広告もその一例である。
「This Is Jeep Country」には、Wrangler、Gladiator、Grand Cherokee、Cherokee、Compass、Grand Wagoneerに加え、新型の完全電気自動車「Jeep Recon」まで、現在のJeepの全ラインアップが登場する。
広告はNFL関連メディアをはじめ、デジタル、コネクテッドTVで展開され、Disney+、Paramount+、Max、Peacockといったストリーミングサービスにも配信される。
Jeepは、経済環境や販売状況に応じて、認知から購買までのフルファネルを意識したマーケティングを継続する方針だ。ダイアー・フィフェルスキは、ファネル上流のブランドマーケティングを継続的に生活者へ届けることが重要だと説明している。
足元の事業環境も、このマーケティング投資を支える要因となっている。ステランティスは2026年第2四半期、北米市場で前年同期比4四半期連続の成長を記録し、米国での販売台数は6%増加した。米国自動車市場全体が0.3%減少する中で、Jeepを含む同社の販売は市場平均を上回った。
現時点で「This Is Jeep Country」の展開は米国が中心だが、Jeepはこのコンセプトを他市場にも応用できると考えている。その理由は、「Jeep Country」が特定の地理的な場所を指す言葉ではないからである。
Jeepにとって「Jeep Country」とは、オーナーがどこに暮らしているかによって決まる土地ではなく、自由や冒険を楽しむ姿勢、そして一つの生き方そのものを意味する。アメリカの伝統を起点にしながら、それを多様な文化や地域の生活者へ開いていく。この発想こそが、分断の時代におけるJeepの新たなマーケティングの道筋となっている。(出典:MARKETING DIVE、画像:Jeep )
















