
マクドナルド、メディアネットワーク事業に参入 広告・ロイヤリティを一体化する新マーケティングモデル
マクドナルドが、広告と顧客接点を組み合わせた新たなマーケティングモデルを本格化させている。2026年9月23日に開催された投資家向け説明会「インベスター・デイ」では、2023年以来となる同イベントで、広告戦略や顧客ロイヤリティの強化、グローバルなデジタル基盤の整備について経営陣が説明した。
その中でも注目されるのが、自社の顧客接点を広告媒体として活用する「マクドナルド・メディア・ネットワーク」である。同社は先月、米国の直営店450店舗を対象に試験運用を開始した。顧客がアプリや店内キオスク、メニューボード、店舗を利用する際に、他ブランドの広告を表示する仕組みであり、将来的には年間10億ドル規模の事業へ育成することを目指している。
マクドナルドの執行副社長兼グローバル最高マーケティング責任者(CMO)のモーガン・フラットリーは、コマースメディアが広告業界でも特に成長の速い領域の一つであり、2028年には米国市場だけで1000億ドルを超える規模になるとの見通しを示した。そのうえで、既存の顧客接点を活用することで、大きな追加コストや業務上の複雑さを伴わずに新たな収益源を生み出せる可能性があると説明している。
メディアネットワーク構想は、投資家向け説明会に先立って報道で明らかになっていた。今回の正式発表は、6月に示された新たな戦略計画を経営陣が詳しく説明する中で行われたものであり、マーケティング改革の一環として位置づけられている。

ファンを起点に、キャンペーンの数を絞って規模を拡大
マクドナルドのマーケティング戦略で重要な位置を占めるのが、ファンとの関係を起点としたブランドづくりである。同社が掲げる戦略の「消費者重視」という柱には、ブランド主導のコンテンツ制作に加え、ファンとの共同制作を通じて、より関連性が高くパーソナルな形で顧客に接触する考え方が含まれている。
フラットリーによれば、主要なQSR(クイックサービスレストラン)ブランドのソーシャルメディア上における肯定的な言及の約40%をマクドナルドが占めており、その割合は2位から4位までの競合3社を合わせた数字を上回るという。同社は、この巨大なファン基盤を新しいマーケティングモデルの土台として活用する。
具体的には、世界規模のイベントや文化的な話題にファンを巻き込みながら、一人ひとりの顧客との関係を深める。その結果として、マクドナルドを日常の「第一の選択肢」として想起してもらい、ブランドとの接点を継続的に生み出すことを狙う。
同社が進める3本柱のマーケティングアプローチでは、ファンやクリエイターによる自然な拡散を促すグローバルキャンペーンも重視している。ブランド自身が保有する独自の知的財産(IP)を軸に大きなアイデアをつくり、それを各市場へ展開することで、広告への投資効率を高める考え方である。
その一方で、キャンペーンの数は減らしていく。ブランド、味と品質、価値といったマクドナルドの中核的な強みに継続的に投資する基盤型のプログラムを拡充し、短期的なプロモーションへの依存度を下げる方針だ。フラットリーは、長期的なブランド構築への投資をおよそ2倍に増やす一方、短期キャンペーンは削減していると説明した。背景には、マーケティング活動が事業運営を複雑化させるという課題もある。第2四半期の決算説明会では、FIFA関連企画に加え、「K-Pop Demon Hunters」やバリューメニューなど複数のキャンペーンが短期間に集中したことが、オペレーション上の負担になったと指摘されていた。
クリス・ケンプチンスキーCEOは、食品の味や品質を高め、消費者の認知を着実に積み上げることが長期的な利益につながると説明する。そうした基盤が強くなれば、その月に適切な映画ライセンスを獲得できたか、あるいは適切なパートナーシップを結べたかといった外部要因に業績が左右される度合いを下げ、マーケティング活動による好不況の波も抑えられるという考え方である。
その新しいモデルを象徴する事例として、マクドナルドは最近実施したグローバルキャンペーン「ワールド・メニュー・ハイスト」を紹介した。各国・地域で人気のあるメニューを別の市場へ展開する企画で、ファンの好奇心を刺激し、ソーシャルメディアで数百万回の視聴と数千件のコメントを獲得しただけでなく、来店客数や売上の伸長にもつながったという。しかも、キャンペーンはマクドナルド自身が持つブランド資産とIPを活用して構築された。
グローバルな効率化とデジタル基盤がマーケティングを支える
マクドナルドは以前から、「グリマス・シェイク」や「大人向けハッピーミール」、「フェイマス・オーダーズ」など、ブランド独自の体験が大きな話題を生み出す力を認識してきた。今後はメニューの強化とグローバルな効率性を組み合わせることで、こうしたブランド体験をさらに大きな規模で展開することを目指している。
「ワールド・メニュー・ハイスト」では、その効率化の考え方が具体的に示された。国際運営市場担当プレジデントのマヌ・ステイジャートによれば、各市場が個別にキャンペーンを展開していた場合には約40社が必要だった主要パートナーを、今回は約10社に集約した。パートナーを共通化することで、単一市場だけでは実現できない規模のマーケティング活動を可能にしたのである。
同時に、マクドナルドはデジタル面でも世界共通の基盤づくりを進めている。その中心となるのが「Global Mobile App One(GMA One)」と呼ばれる統合モバイルプラットフォームである。今年後半にフランスで試験導入を開始し、2028年末までに他市場へ展開する計画だ。
このプラットフォームでは、ソーシャルコマースなどデジタル領域で先行する中国のような市場から得られる知見も取り込むことを目指している。市場ごとに異なるデジタルサービスを個別に開発するのではなく、グローバルな基盤を整えたうえで各市場に必要な機能を組み合わせる発想である。
マクドナルドの国際開発ライセンス市場担当プレジデント、ダリオ・バローニによれば、これまで同社のデジタル体験は、市場ごとに異なるコードベース、開発ロードマップ、機能を使って構築されるケースが多かった。そのため開発には時間とコストがかかり、全体として非効率になりやすかったという。
そこで同社は過去3年間をかけてデジタル基盤を再構築し、注文、マーケティング、ロイヤリティ、顧客データを一つのグローバルなバックボーンに統合した。新しいプラットフォームでは、ほぼすべての市場で毎月のように新機能を提供できる体制を目指している。
さらに、システムはモジュール型のアーキテクチャを採用しており、AIへの対応も想定されている。中核システム全体を作り直さなくても、新たに登場する会話型コマースなどのチャネルと直接接続できるよう設計されている点も特徴である。
メディアネットワーク、ファンを起点としたブランドコミュニケーション、そしてグローバルなデジタル基盤。マクドナルドが進めているのは、広告キャンペーンを増やすことだけではなく、店舗、アプリ、ロイヤリティ、顧客データ、ブランドIPを一つのマーケティングエコシステムとして再構築する動きである。広告を新たな収益源にすると同時に、顧客との接点そのものを強化することで、マーケティングと事業成長をより直接的につなげようとしている。(出典:MARKETING DIVE、画像:Unsplash)
















