ヒルトンCMOが語るブランド戦略―「ロイヤルティは非合理的な愛着から生まれる」

旅行需要が堅調に推移する中、ホテルブランドにとって重要性を増しているのが、ロイヤルティプログラムとブランド体験である。ヒルトンのグローバルCMO、マーク・ワインスタイン氏は、現代のブランドマーケティングは単なる宿泊販売ではなく、「非合理的な愛着(Affinity)」を築くビジネスだと語る。

同社はクリエイターとの協業やAIの活用、ロイヤルティプログラムの進化を組み合わせながら、ブランドとの長期的な関係構築を目指している。

ロイヤルティは「ポイント」ではなく「体験」が生み出す

物価上昇が続く中でも、多くの米国消費者は旅行を優先しており、宿泊費を抑えるためにロイヤルティポイントを活用するケースも増えている。こうした市場環境を背景に、ヒルトンは2026年夏、「ヒルトン・オナーズ」の認知拡大を目的としたソーシャルキャンペーンを展開した。ブランドアンバサダーのパリス・ヒルトンと、20年以上にわたりヒルトンと提携するマクラーレンF1所属のランド・ノリスを起用し、総額10億ヒルトン・オナーズ・ポイントをプレゼントする企画を実施。ポップカルチャーやスポーツとの接点を活用しながら、ブランドへの関心を高める狙いがある。

現在、「ヒルトン・オナーズ」の会員数は約2億6,000万人に達している。特典には無料宿泊や客室アップグレードに加え、新たな提携先であるエクスプロラ・ジャーニーズによるクルーズ体験なども含まれる。
ワインスタイン氏は、ロイヤルティはポイントの蓄積そのものではなく、「ポイントを使って価値を実感すること」で生まれると説明する。会員ランクも同様で、ランクを上げることではなく、その特典によって満足度が高まることが重要だという。

同氏は「私たちはコモディティを売っているのではない。ブランドへの非合理的な愛着を育てるビジネスをしている」と強調している。なお、ヒルトンは2026年第2四半期に客室単価や稼働率を反映する主要指標(RevPAR)が前年同期比3.9%増となり、年間の成長見通しも上方修正している。

クリエイターとの協業では「コントロールを手放す」

ヒルトンは近年、クリエイターとの協業にも力を入れている。米国ではクリエイターエコノミーへの広告投資が拡大し、主要なメディアチャネルとして位置付けられるようになった。
一方で、クリエイターとの協業ではブランド側が従来ほど細かく演出を管理しない姿勢が求められるとワインスタイン氏は話す。

ブランドが脚本を完全にコントロールするよりも、クリエイター自身が持つ自然な表現や視聴者との信頼関係を尊重した方が、高い共感を獲得できるためだ。
ヒルトンも初期には細かな指示を出していたが、その結果、動画がテレビCMのような印象になってしまうケースもあったという。現在では、フォロワー数の多少にかかわらず、クリエイターが自身のコミュニティを最も理解しているという前提で制作を任せる方針へと転換している。

こうした柔軟な運用を支えているのが、2022年に導入したブランドプラットフォーム「For the Stay」である。ブランドの軸が明確だからこそ、一つひとつの施策で完璧を目指す必要はなく、小さな成功を積み重ねながらブランド全体を強化できるという考え方だ。

AIはマーケティングと検索体験を変え始めている

ヒルトンでは、AIもマーケティング基盤として急速に活用が進んでいる。
同社は世界144の国・地域で28ブランド、約9,200ホテル、130万室以上を運営している。膨大な客室情報や画像、説明文を常に最新状態へ保つことは大きな課題だったが、AIによって情報更新の効率化と品質向上が進んでいる。
さらにAIは広告運用にも活用され、消費者ごとに最適化された数千種類もの広告クリエイティブを短時間で生成できるようになった。旅行予約はタイミングが極めて重要であり、顧客の検索や検討の瞬間に最適な情報を提示できることが競争力につながるという。

一方で、旅行計画の入り口も変化している。検索エンジンだけでなく、大規模言語モデル(LLM)や生成AIが旅行情報を提示するケースが増えており、口コミサイトやReddit、LinkedIn、Wikipediaなど、第三者が発信する情報の重要性も高まっている。ヒルトンはAIを活用した広告配信を試験的に進める一方、従来のSEOだけではなく、生成AIに引用・推薦されやすくする「回答エンジン最適化(Answer Engine Optimization)」や「生成エンジン最適化(Generative Engine Optimization)」への対応も進めている。

ワインスタイン氏は、情報がさまざまなチャネルへ拡散する現在、ブランドがすべてをコントロールすることは不可能だと指摘する。そのうえで重要なのは、「ブランドとして一貫したストーリーを語り続け、自分たちらしさを維持すること」であり、それがAI時代におけるブランドマーケティングの基本姿勢になるとの考えを示している。(出典:MARKETING DIVE、画像:ヒルトン、Unsplash)

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