
米映画興行、「スパイダーマン」など大作が牽引し記録的週末 それでも観客数は低迷
2026年の米国映画興行は、コロナ禍後で最も好調な年になる勢いを見せている。先週末には「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」と、クリストファー・ノーラン監督による「オデュッセイア」がそろって好調なスタートを切り、公開初週末として過去最高の興行収入を記録した。
ただし、映画館市場が完全に復活したと判断するのは早い。現在の好調さは、映画館に幅広い観客が戻ってきたことよりも、大作映画への集中、高価格帯のチケット、IMAXなどのプレミアム上映によって支えられているからである。
2026年最初の30週間に米国の映画館で販売されたチケットは、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの推計で4億7090万枚だった。これは2019年の同時期に記録した7億4730万枚を大きく下回る。
同社のアナリスト、ウェイド・ホールデン氏は、映画館運営会社の売上増加について、近年は「平均チケット価格と売店商品の価格上昇によるところが大きい」と指摘する。来場者数を追跡するPlacer.aiのデータも同じ傾向を示している。7月までの米映画館来場者数は前年同期比で8.1%増加したものの、2019年との比較では依然として27%少ない。
つまり、興行収入は回復している一方で、映画館を訪れる人の絶対数はコロナ禍以前の水準まで戻っていない。映画館ビジネスは現在、「少ない観客が、より高い料金を支払う」構造に依存している面がある。
オリジナル作品のヒットが市場を支える
それでも2026年の興行には、これまでとは異なる明るい材料もある。今年は「オブセッション 災愛」や「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のように、既存シリーズに属さない作品もヒットしている。
Rentrakによると、8月2日までの米国内興行収入は62億ドル(約9771億円)で、前年同期比15%増となった。2019年同期の70億ドル超には届いていないものの、回復傾向は明確である。
近年のハリウッドでは、「マーベル」や「スター・ウォーズ」をはじめとする人気シリーズ、続編、リメイクなどに興行成績が集中する傾向が強かった。しかし今年は、オリジナル作品や単発作品も上位に入り、観客がより幅広い作品に反応している。
映画チケット販売サイトFandangoの映画分析ディレクターで、興行分析サイト「Box Office Theory」の創設者でもあるショーン・ロビンズ氏は、今年の好調について、さまざまなジャンルの作品がバランスよく配置されたことが大きいと分析する。
一方で、夏の興行を牽引しているのは依然として大型作品だ。「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」や「オデュッセイア」では、IMAXなどの大型スクリーンが相次いで完売した。
映画館側にとって、こうしたプレミアム上映は重要な収益源となっている。ストリーミングサービスの普及によって自宅で映画を見る選択肢が増えた現在、映画館は家庭では再現しにくい大画面や高品質な音響などを提供し、その体験に対して高い料金を設定する方向へ進んでいる。

「映画館に行く理由」を高価格帯の体験でつくる
世界最大の映画館チェーン、AMCエンターテインメントは、プレミアムスクリーンへの強い需要を背景に、106年の歴史で単一週末として過去最高の売上高を記録したと発表した。
AMCとOdeonの劇場には、同じ週末だけで1020万人を超える観客が訪れたという。入場者数としても過去10年間で最大規模となった。
これは、映画館が単純に「映画を見る場所」から、特別な体験を提供する場所へと変化していることを示す例でもある。観客はすべての作品を映画館で見るのではなく、巨大スクリーンで見る価値がある大作や話題作を選んで足を運ぶようになっている。
チケット価格の上昇は、こうしたビジネスモデルを支える。映画興行データ分析プラットフォームのEntTelligenceによると、7月30日までの成人向けチケットの平均価格は13.46ドル。IMAXなどプレミアム形式では18.22ドルだった。
一方、興行収入が一部の大手スタジオに集中している点も見逃せない。Rentrakのデータでは、Universal Pictures、Walt Disney、Sony Pictures Entertainment、Warner Bros.、Paramount Picturesの5社だけで、2026年の米国内興行収入の68%を占めている。
映画館側から見れば、少数の大作の成否が業績を大きく左右する構造である。
実際、Comcast傘下のUniversalが配給した「オデュッセイア」や「スーパーマリオギャラクシー・ザ・ムービー」などの成功によって、Universalの国内市場シェアは24%まで上昇した。
この寡占化は規制面でも問題になっている。カリフォルニア州など12州は、Paramount SkydanceによるWarner Bros. Discoveryの約1100億ドル規模の買収を阻止するため提訴している。Rentrakによれば、両社が統合していた場合、先週末までの米国内興行収入の約11%を占める規模になっていたという。
大作依存から抜け出せるかが次の課題
2026年の映画市場には、確かな回復の兆しがある。前年比で興行収入は伸び、オリジナル作品にもヒットが生まれ、大型作品では過去最高水準の興行記録も出ている。しかし、映画館を訪れる観客数そのものは、2019年の水準から大幅に減少したままだ。
そのため、現在の回復を「映画館文化の完全復活」と見るより、映画館ビジネスが新しい収益モデルを確立しつつある段階と考えた方が実態に近い。
そのモデルの中心にあるのが、大作映画、プレミアム上映、高価格帯チケット、そして館内体験である。
観客が映画館を訪れる回数が減ったとしても、「この作品は大画面で見たい」と思わせることができれば、1回あたりの消費額を高めることができる。IMAXなどのプレミアムフォーマットが好調なのは、その戦略が一定の成果を上げているためだ。
ただし、このモデルにはリスクもある。大作映画の公開本数やヒット作の数が減れば、映画館の収益も一気に落ち込む可能性があるからだ。2026年の興行成績が年間を通じて好調を維持できるかどうかは、今後公開される高予算作品がどこまで観客を引きつけられるかにかかっている。
そして本当の意味での市場回復を判断するには、興行収入の数字だけではなく、映画館を訪れる人の数がどこまで戻るのかを見る必要がある。
現在の米映画市場は、かつての「多くの人が何度も映画館へ行く」ビジネスから、「限られた観客が、特別な作品により高い金額を払う」ビジネスへ移行している。その変化が一時的な現象なのか、それともポスト・ストリーミング時代の映画館の新しい姿なのか。2026年の好調な興行は、その答えを探る重要な一年になりそうだ。(出典:Reuters、画像:Unsprash)
















