FIFAワールドカップで加速するユニリーバの「ソーシャルファースト」戦略

ユニリーバが2026年FIFAワールドカップを舞台に、同社史上最大規模となるスポーツマーケティング施策を展開している。今回の取り組みは単なるスポンサー活動ではなく、世界中のクリエイターやインフルエンサーとの協業を軸に据えた「ソーシャルファースト」戦略の実践の場となっている。パーソナルケア事業を中心に35を超えるブランドが参加し、YouTubeやTikTokなどの主要プラットフォームを活用しながら、世界規模でファンとの接点拡大を図る。

この施策の背景には、ユニリーバが近年進めてきたマーケティング変革がある。同社はデジタル広告予算の半分をソーシャルメディア中心の施策へ振り向ける方針を掲げており、世界最大級のスポーツイベントであるワールドカップは、その有効性を検証する絶好の機会となる。社会的分断や経済的不透明感が広がる中で、ワールドカップは世界中の人々が共通の熱狂を共有できる数少ない舞台となっており、多くのブランドが注目するマーケティング資産となっている。

ユニリーバ・パーソナルケア部門の統合ブランド体験担当バイスプレジデントであるアフケ・ファン・デ・クラショルスト氏は、ファンや選手、観客が最も感情を高ぶらせる試合当日の瞬間に寄り添いながら、自然で意味のある形でブランド価値を届けることが狙いであると説明している。また、同社はスポーツを単なるスポンサーシップではなく、文化的な関連性を高めながらブランド成長を促進するプラットフォームとして位置付けている。

クリエイターとの協業と24時間稼働のコンテンツ拠点

ユニリーバの戦略の中核を担うのが、世界各地のクリエイターとの連携である。同社は以前から、主要市場において地域単位でインフルエンサー網を構築する構想を示してきた。今回のワールドカップ施策でも、その考え方が反映されており、スポーツファンや解説者、現役アスリートに加え、ファッション、ライフスタイル、美容分野のクリエイターまで幅広い人材とのコラボレーションを展開する。

参加ブランドには、Dove、Dove Men+Care、Rexona、Degree、Axe、Lynxなど、ユニリーバを代表するパーソナルケアブランドが名を連ねている。これらのブランドは、それぞれ異なるコミュニティや文化圏に向けたコンテンツを発信しながら、ワールドカップという共通テーマの下で消費者との関係構築を進める。

さらに同社は「The Locker Room」と呼ばれる24時間365日体制のコンテンツハブを立ち上げる。この拠点には専属クリエイターやサッカー専門家が参加し、大会期間中に発生する話題や試合展開にリアルタイムで反応しながらコンテンツを制作する。目的は、ソーシャルメディアが持つコミュニティ形成力や拡散力と、テレビ放送が持つ感情的な訴求力を融合させることである。

ユニリーバ・パーソナルケア部門のインフルエンサー・メディア・ディレクターであるサラ・ポッター氏は、有料広告も組み合わせながらクリエイターコンテンツを継続的に最適化し、TikTokやYouTubeなど複数のプラットフォームを通じて大会期間中だけでなくその後も認知拡大を図る考えを示している。

「多対多」の時代へ向かうスポーツマーケティング

オンライン施策に加え、リアルな体験型イベントも展開される。その代表例が「House of Fresh」である。このイベントはメキシコシティ、ニューヨーク、マイアミなど北米の開催都市で実施され、参加者によるユーザー生成コンテンツ(UGC)の創出を促進するよう設計されている。来場者自身が体験を発信することで、ソーシャル上での話題拡散を狙う取り組みだ。

ユニリーバはこれまでもスポーツマーケティングへの投資を積極的に拡大しており、米国市場における関連予算は2024年以降ほぼ倍増したとされる。ワールドカップはそうした投資をさらに加速させる象徴的な機会となる。

同社は今回の取り組みを、従来のテレビCMを中心とした「一対多」のマーケティングから、消費者同士が情報を共有し拡散する「多対多」のマーケティングへの転換を象徴するものと位置付けている。ブランドが一方的にメッセージを発信するのではなく、ファンやクリエイター、コミュニティが相互につながりながらブランド体験を共創するモデルへの移行である。

一方でユニリーバは現在、食品事業やアイスクリーム事業の分離を含む大規模な事業再編を進めている。経営体制も刷新されており、マーケティング部門では最高成長・マーケティング責任者を務めていたエシ・エグルストン・ブレイシー氏が退任し、ビューティー&ウェルビーイング部門でCMOを務めていたレアンドロ・バレット氏が新たなマーケティング責任者に就任した。こうした組織変革の中で進められるワールドカップ施策は、ユニリーバが掲げる「ソーシャルファースト」戦略の真価を示す重要な試金石となりそうである。(出典・画像:Unilever, Marketing Dive)

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