
KFC、ブランド再生に本腰──カーネル・サンダースが再び最前線へ
米国のファストフード市場では、Raising Cane’sやChick-fil-Aといった競合ブランドが急速にシェアを伸ばす中、KFCはかつての顧客を取り戻すべく、本格的なブランド再建に乗り出した。創業者でありブランドの象徴でもあるカーネル・サンダースが、その象徴的な笑顔を一変させ、不敵な表情で新たなキャンペーンの顔として復帰したことが、その決意を象徴している。
「Obsession」──伝説の起点に回帰する物語
KFCが打ち出した新たなマーケティングキャンペーンでは、「Obsession(執念)」と題したテレビCMが中核を担っている。この作品では、サンダースがKFCを象徴する“11種類のハーブとスパイス”のレシピを編み出すまでの苦闘の道のりが、ドラマチックに描かれている。共演するのは、人気ドラマ『The Bear』に出演し、シェフとしても知られるマティ・マシスン。映像は、彼が演じる料理人さながらの熱量と緊張感で構成され、KFC創業期の“試行錯誤と情熱”を現代の文脈で再定義するものとなっている。
今回のキャンペーンでは、従来の陽気なマスコットではなく、真剣な表情を浮かべたカーネルが登場する。看板、ビルボード、ロゴといったブランドビジュアルが刷新され、KFCの現在地と再出発の意思を、視覚的にも明確に訴える構成となっている。ブランドの根幹にあるストーリーテリングを再起動し、カーネル・サンダースという存在を単なる象徴から“行動する創業者”へと再解釈している。
ストーリーの拡張と参加型プロモーション
この「Obsession」は、劇場公開作品の予告編と並ぶ形で映画館で初公開され、FOXのMLB中継や各種ストリーミングプラットフォームでも短縮版が展開されている。さらに7月17日には、YouTubeで拡張版が配信され、視聴者がカーネルのレシピに隠された11の謎を解くという“宝探し”企画も仕込まれている。難易度は“Wordle級”から“量子物理学レベル”までとされており、見事に解読した者には、KFCのチキンバケットが11ヶ月分無料になるという仕掛けも用意されている。
この新たな戦略は、「The Colonel Lived So We Could Chicken(カーネルが生きたから、我々はチキンが食える)」というスローガンを冠し、大規模な広告投資とともに展開されている。調査会社QSRによれば、米国の消費者はカーネル・サンダースを文化的アイコンとみなし、「アメリカ的精神」の体現者として共感を抱いている。KFCに対して「時代遅れ」「味気ない」とする声も存在する一方、非利用者の90%が同ブランドに好感を持っているというデータも示されている。
KFCアメリカの社長キャサリン・タン=ガレスピー氏は、「人々が過去の恋人に何度もチャンスを与えるように、我々にも再びチャンスを与えてもらえると信じている」とコメントし、この“カムバック時代”におけるブランドの再起動を明言している。
KFCは今回のキャンペーンと連動し、デジタル・プロモーション「Free Bucket On Us」を展開。公式アプリやウェブサイトから15ドル以上の注文をした顧客に、無料のチキンバケットを提供する。また、Z世代の間で人気のフライド・ピクルスも新たにメニューに加えられ、商品開発とプロモーションが連動する形で進められている。
再構築の道のりと競争環境
KFCは、テンダー、チキンサンドイッチ、各種ソースを軸とした「ソーシーストア」などの実験的施策でも手応えを得ている。しかし、Raising Cane’s、Wingstop、Chick-fil-A、Popeyesといった競合他社の勢いは強く、サーカナの分析によれば、2024年にこれらライバルブランドは消費支出を拡大する中、KFCの米国売上は4%減少し、43億4,000万ドルにとどまった。
KFCが描くカムバックの道筋には、創業者の“情熱”と“執念”を現代に再解釈し、消費者の心に再び火を灯す狙いが込められている。マーケティングのトーンを大胆に刷新し、プロダクト、プロモーション、ブランド体験を総合的に再設計することで、KFCは「再び選ばれるブランド」としての地位を取り戻そうとしている。この新章が実を結ぶかどうかは、カーネルの表情と同様に、消費者の反応が物語ることになるだろう。(出典;KFC, Digital Marketing Dive)