
電通クリエイティブの調査、AI活用の期待と実効性のギャップを指摘 ブランド独自の創造性が競争力に
電通クリエイティブは、14市場のマーケティング分野における上級意思決定者1,950人を対象に実施した調査をまとめた、2026年版グローバルCMOレポート『Making it Real』を発表した。レポートでは、AIに対するマーケターの期待が続く一方、競争力の源泉として、人間ならではの創造性や共感、ブランド独自の個性が改めて重視されている実態が明らかになった。
マーケティング業界は、AI導入への初期の熱狂から、具体的なビジネス成果を求める段階へと移りつつある。AIは業務のスピードや処理規模、対応力を高めているものの、導入による投資を、ブランド力の向上や顧客との関係強化、事業成長へと結びつけることは容易ではない。
調査では、回答者の71%がAIによって市場投入までの時間が短縮されたと答えた一方、70%は大幅なコスト削減をまだ実感できていないと回答した。また、74%が現在導入しているツールの一部を入れ替えることを検討しており、62%はAIを用いて制作したクリエイティブが、自社ブランドのトーン・オブ・ボイスや外観、雰囲気を十分に表現できていないと考えている。
こうした結果は、AIの導入そのものが成果を保証するわけではないことを示している。テクノロジーの活用を実際の競争力につなげるには、ブランドのビジョン、組織の仕組み、技術基盤を一体的に設計する必要がある。クリエイティビティ、メディア、制作、データ、テクノロジーを明確なブランド・プロミスのもとに統合し、人間の創意工夫や組織変革、実体験への投資を進めることが重要だという。
電通のグローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー、佐々木康氏は、マーケターがテクノロジーを使って、より人間味のある体験を生み出そうとしていると指摘する。AIの価値は制作物の数を増やすことだけではなく、より大きなインパクトを実現することにあるという。
佐々木氏は、2027年以降に向けた課題を「Make it Real」と表現する。ブランド、テクノロジー、業務運営の仕組みを連携させ、AIの可能性を具体的な成果へ変えることが求められる。現実世界の接点への再投資に加え、データ、制作、メディアをつなぎ、適切なタイミングで最適な体験を届けることも重要になる。AIによって優れた仕事を生み出しやすくなる時代だからこそ、卓越したクリエイティブを可能にする人材や個性への投資が欠かせないと述べている。
AI時代のマーケティングを捉える10のテーマ
レポートでは、マーケティングを取り巻く変化を10のテーマに整理している。
可能性から実証へ。 CMOはAIの可能性を評価しながらも、導入効果を得るための組織文化や業務プロセスの変革を重視し始めている。AIエージェントへの業務の全面委任には慎重な姿勢も残り、63%が評判への悪影響を懸念している。
制作量からインパクトへ。 評価の重点は、制作物をどれだけ効率よく生み出せるかという問題から、顧客とのつながりや事業への効果へと移っている。77%は、コスト効率よりも「文化的スピード」を重視すると回答した。文化的スピードとは、社会や文化の変化を捉え、ブランドが適切なタイミングで反応する力を指す。
差異を設計する。 アルゴリズムに最適化された情報フィードや自動生成コンテンツが広がるほど、ブランド表現が似通うリスクも高まる。78%が、アルゴリズムに合わせた最適化はコンテンツの画一化を招く可能性があるとの見方に同意した。ブランド独自の違いを、表面的なデザインだけでなく、ツールやテクノロジー、業務フローに組み込むことが求められている。
「スパイキー・シンキング(尖った思考)」。 クリエイターやコミュニティとの協業が広がる中、ブランドのアイデアには、完成されたメッセージを伝えるだけでなく、議論や共創を生み、さまざまな方向へ発展する力が必要となる。78%が、ブランドは会話を終わらせるのではなく、始める存在であるべきだという考えに賛同した。
文化を生み出すキャンバス。 文化を通じたブランド構築への関心は高いが、信頼性や効果測定、ブランド戦略との整合性には課題が残る。ファン文化への理解も重要性を増している。81%は、オーディエンスが細分化する中、スポーツとエンターテインメントが大規模なブランド構築に不可欠な接点になると考えている。
文脈の相乗効果。 AIが感情に響くコンテンツを生み出せるかについては不確実性が残る一方、誰に、いつ、どのような体験を届けるかという文脈の重要性が高まっている。しかし、77%は、メディア、データ、制作を別々に扱うエージェンシーの組織構造が、コンテンツの効果を十分に引き出せていないと回答した。
人間ならではの価値。 自動化が進むほど、人間の直感や共感、職人技が差別化要因になる。ブランド独自の洞察を得るため、ファンやコミュニティの声に耳を傾けることも重視されている。83%が、自動化の進展に伴い、実際の顧客の声を聞くことがこれまで以上に重要になったとの考えに同意した。
小さな存在を大きな力に。 ブランドはマイクロインフルエンサーのネットワークを活用し、自然な共感を通じてアイデアを広げようとしている。また、大規模言語モデル(LLM)を利用した情報環境における可視性の確保も課題となっている。81%は、ナノインフルエンサーなど、親近感やリアリティのあるクリエイターが、有名人より優れた成果を生む場合があると考えている。
百聞は一見に如かず。 デジタル上の情報接触が広がる一方、消費者が現実の場での体験や人との共有を求める傾向も強まっている。マーケターは屋外広告、パッケージ、イベント、体験型施策への投資を増やす方向にあり、82%がリアルな体験への投資拡大を計画している。
実用的な魔法。 イノベーションに対する姿勢も、目新しさを追うことから、具体的な業務上の課題を解決し、事業変革を実現することへと変わりつつある。80%が、イノベーションは付随的なプロジェクトではなく、企業が直面する重要かつ緊急性の高い課題の解決に向けて取り組むべきだと考えている。
電通クリエイティブのグローバル最高戦略責任者(GCSO)、パトリシア・マクドナルド氏は、これまでの業界が規模の拡大や統合、効率化に重点を置いてきた一方、現在は意図的にブランドの違いを生み出す方法へと議論が移っていると指摘する。
マクドナルド氏が重視するのは、単に大きな広告アイデアをつくることではなく、周囲を動かす「触媒となるアイデア」である。こうしたアイデアは、顧客に向けたブランド表現だけでなく、社内システム、テクノロジー、組織設計にも影響を与え、あらゆる接点でブランドの約束を具体化する。電通の役割は、クライアントがテクノロジーへの投資と市場での成果の隔たりを埋め、制作物の量ではなく、人々とのつながりが生み出す価値で技術基盤を評価できるよう支援することだという。

現実の体験と人間のアイデアを結びつける
電通クリエイティブ&メディア・ブランズ南アジアCEOのアミット・ワドワ氏は、インドではブランド体験が一つの場所に限定されず、フェスティバルや店舗、スクリーン、さらには文化そのものの中で生まれていると説明する。同氏は、『Making it Real』が、CMOの間で現実世界や文化的な瞬間の価値が高まっていることを示していると述べた。
一方、AIも日常的なマーケティング業務に急速に組み込まれている。インドのCMOの94%が、AIを活用したワークフローが標準になると予測しているという。ワドワ氏は、広告会社にとっての機会は、AIと現実の体験を別々に扱うのではなく、人間のアイデアを中心に据えながら、コンテンツ、メディア、データ、テクノロジーを結びつけることにあると指摘する。重要なのは、これらの要素を人々にとって意味のある体験へと統合できるかどうかだ。
『Making it Real』が示すのは、AIを導入するか否かという段階を超え、その活用をいかにブランド独自の価値や事業成果につなげるかという課題である。制作の効率化や規模の拡大だけでは差別化が難しくなる中、企業には人間ならではの創造性、顧客への理解、文化との接点、そして組織全体を横断する連携が求められている。(出典:branding in asia、画像:
















