高級品市場は2026年に回復局面へ ベインが示す「意味」と「体験」が競争力となる新時代

世界のラグジュアリー市場は、2024年から続いた調整局面を抜け、2026年には緩やかな回復軌道に入る見通しである。ただし、その回復は従来型の需要拡大とは異なる。市場を支えるのは価格競争ではなく、ブランドの文化的な存在意義や顧客体験、AIを活用した新たな購買体験である。

ベイン・アンド・カンパニーが発表した最新レポートでは、高級品市場は「安定しながら変化する市場」と位置付けられており、地域ごとの成長格差や消費者心理の変化を踏まえたブランド戦略が重要になると分析している。

世界市場は回復基調へ 米国が成長を牽引、中国も改善の兆し

ベインの予測では、2026年の世界ラグジュアリー市場は前年を上回り、総市場規模は約1兆4,400億〜1兆4,700億ユーロとなる見込みである。一定為替ベースでは前年比0〜2%の成長が想定されている。
個人向けラグジュアリー市場についても回復が予測され、2025年の約3,580億ユーロから2026年には3,650〜3,730億ユーロへと拡大し、2〜4%程度の成長が最も現実的なシナリオとされる。
この見通しは、中東情勢の安定、中国市場の緩やかな回復、各地域での消費継続を前提としており、ベインではこのシナリオの実現確率を約70%と見積もっている。

さらに地政学リスクの一段の緩和や中国需要の加速、米国市場の力強い回復が実現すれば、成長率は4〜6%まで高まる可能性もある。ただし、その実現確率は約20%と慎重な見方である。
2024年は世界の高級品市場が約2%縮小し、およそ5,000万人の顧客を失った。これは2008〜2009年の金融危機と2020年のパンデミック期を除けば極めて珍しい落ち込みであった。
2025年には米国の追加関税が業界の懸念材料となったが、多くのブランドはサプライチェーンの見直しや価格戦略の調整によって利益率を維持した。さらに米国では関税政策の見直しも進み、ブランド各社は還付申請が可能となるなど、経営環境は改善しつつある。

地域別では米国市場が引き続き最も好調である。2026年第1四半期には、多くの高級ブランドが前年同期比10〜15%の売上成長を記録した。
一方、中国市場もオンライン販売を中心に回復基調にあり、第1四半期の高級品EC売上は25〜35%増加した。消費者は従来の革製品よりも既製服への関心を強めており、社会的ステータスより自己表現を重視する傾向が鮮明になっている。
対照的に欧州市場は依然として厳しい。中東からの旅行需要減少やユーロ高の影響で観光消費が落ち込み、2026年2月の国際旅行者による支出は前年同月比約20%減となった。湾岸地域からの富裕層旅行者も大きく減少している。

「所有」から「体験」へ 消費者がブランドに求める価値が変わる

市場全体で最も大きな変化は、ラグジュアリーに対する価値観の転換である。
現在、消費者の関心は商品そのものよりも体験へと向かっている。ベインによれば、体験型ラグジュアリーへの支持は個人向け高級品を約1.5倍上回っている。

消費者は、商品だけでなくブランドとの接点そのものに価値を求めるようになった。店舗は単なる販売拠点ではなく、ブランド体験を提供する空間であることが期待されている。
商品カテゴリーではジュエリーが引き続き市場を牽引しているほか、アパレル、アイウェア、フレグランスも堅調である。

一方で革製品やシューズは依然として厳しい状況にあるものの、改善の兆しも見え始めている。
また、ヴィンテージやリセール市場の存在感も年々高まっている。現在では高級品購入者のおよそ半数が、新品を購入する前に中古市場を確認しており、リユースが購買プロセスの一部として定着している。
価格上昇が続くなか、消費者は商品以上に接客やサービス品質を重視するようになった。高額商品に見合う体験価値を提供できるブランドほど、顧客との長期的な関係を築きやすくなると分析されている。

AIと文化的共感が次世代ブランド競争を左右する

ベインは、AIの普及が高級品業界の競争環境を大きく変え始めていると指摘する。
現在、高級品購入者の約半数が商品選びの過程でAIを利用しており、今後も継続して利用する意向を示している。
利用目的を見ると、約25%がブランドや商品の発見、約65%が商品の比較・検討にAIを活用している。
AIは業務効率化だけでなく、パーソナライズされた接客や提案、さらにはブランドとのコミュニケーション強化にも活用されるようになっている。

その一方で、AIによって消費者の商品知識も格段に高まるため、価格と提供価値のバランスはこれまで以上に厳しく評価される。
特にZ世代はブランドへの忠誠心が低く、自ら比較・検証した上でブランドを選択する傾向が強い。価格だけではなく、そのブランドが持つ思想や文化的な意義への共感を重視している。
さらにZ世代は自身だけでなく、親世代やミレニアル世代にも影響を与える存在であり、将来の市場形成を左右する重要な消費者層と位置付けられている。

ベインは、富裕層や高齢層だけに依存したブランド戦略では長期的な成長は難しいと指摘する。
これからのブランドは、スポーツ、音楽、カルチャーイベントなど、生活者の文化体験に積極的に関わりながら、本物の共感を築く必要があるという。実際、現在のラグジュアリー市場価値の80%以上は、過去1年間にスポーツスポンサーシップへ積極投資したブランドによって生み出されている。
また、高級品市場から離れた消費者の7割以上は、再びラグジュアリー市場に戻る意向を持っているものの、以前と同じブランドを選ぶとは限らない。

つまり、これからの市場ではブランドロイヤルティは自動的に維持されるものではなく、ブランドが継続的に「選ばれる理由」を提示し続けなければならない。
ベインは、今後のラグジュアリーブランドの競争力は、価格や知名度ではなく、「文化的な意味」「顧客との共創」「AI時代に適応した体験価値」の3つによって決まると結論付けている。新たな市場では、ブランドの存在意義そのものが最大の競争力となるのである。(出典:VOGUE、画像:Bain & Company、Unsplash)

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