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AIの波は広告業界の“コダック・モーメント”にはならない

ピュブリシスのCEO、AI活用率73%の事業構造を公表

広告業界がAIによって大きな変革期を迎える中、ピュブリシス・グループのCEOアーサー・サドゥーン氏は、AI時代を脅威ではなく「成長のチャンス」として捉えている。

今年初め、Brandtech Groupのデイヴィッド・ジョーンズ氏は「AIは広告代理店に“コダック・モーメント”(時代遅れによる崩壊)をもたらす」と警鐘を鳴らした。しかしサドゥーン氏はこの見方を否定し、次のように語っている。「私はそうは思いません。むしろ、AIによってクライアントはこれまで以上にマーケティングの戦略的パートナーを必要としているのです。変革を恐れず実行できる代理店こそ、最も求められる存在になります。」

この発言は、ピュブリシスが2025年第3四半期に5.7%の既存事業成長を報告し、通期見通しを5%から5.5%へ上方修正した直後に発表されたものだ。純収入は前期比3.1%増の40億ドルに達し、米国市場では7.1%の成長を記録した。サドゥーン氏は「この勢いは2026年まで続く」とし、AIへの長期投資が安定的な業績に直結していると強調した。

ピュブリシスのAI推進モデル ― 73%がAI統合済み

同社はここ数年でEpsilonやLotameといったデータテクノロジー企業を買収し、全体の73%の業務プロセスをAI活用型に転換した。このAIインフラの中核には、社員10万人を支援する分析・生成プラットフォーム「CoreAI」と、制作自動化を実現する「Leona」がある。サドゥーン氏によると、クライアント企業はこれらのツールを活用することで、コスト削減と効果的なマーケティング運用を同時に実現しているという。

また、同社のメディア部門(全収益の60%を占める)では、売上の80%がAIツールによる成果であり、クリエイティブ領域でもAIが純利益の3分の1を牽引している。結果として、グループ全体の収益に約8%の貢献をもたらした。

クライアント拡大とAIによる新しい価値創出

ピュブリシスは2025年第3四半期に、コカ・コーラ北米のメディア業務や、かつてWPPが担当していたマーズの13.4億ドル規模のアカウントなどを新たに獲得。また、パラマウント、ペイパルなど少なくとも10社の新規クライアントを追加した。

サドゥーン氏は、「AIは効率化のためのツールではなく、クライアントのビジネス変革を後押しする“共創パートナー”」だと述べている。
同社のデジタルトランスフォーメーション部門であるパブリシス・サピエントも、AIによる企業システム統合やマーケティング自動化の支援を強化している。

「単一プラットフォーム依存」は危険

一方で、MetaやGoogleなどのテック企業がAIを活用した「広告生成・自動配信システム」を強化している点について、サドゥーン氏は懐疑的な立場を取っている。「私たちの主要クライアントの中で、マーケティング予算の4%以上を単一プラットフォームに投じている企業は存在しません。多様なエコシステムを保つことこそ、リスク分散の鍵です。」

この発言は、MetaがAI広告で自社収益を21%押し上げたという報告に対する対抗姿勢でもある。

雇用とAI ― 「破壊ではなく再配置」

AIによる自動化が人員削減を招くのではないかという懸念について、サドゥーン氏は次のように述べている。「AIによって業務の性質は変わるが、職が消えるわけではない。重要なのは“再配置”であり、リソースを成長領域へ適切に移すことだ。」

実際、同業のWPPが昨年7,000人の人員削減を実施した一方で、ピュブリシスは引き続き採用を継続している。サドゥーン氏は「雇用破壊はAIのせいではなく、業績不振や統合施策の結果だ」と明言している。

2024年末時点で、ピュブリシスは売上高・時価総額ともにWPP、オムニコム、IPGを上回り、業界トップに立っている。しかし、オムニコムによるIPGの買収計画が進行中で、統合後の売上規模は256億ドルに達する見込みであり、ピュブリシスの165億ドルを上回る可能性がある。それでもサドゥーン氏はこの状況を「脅威ではなくチャンス」と捉えている。「業界全体はすでに“スリムで深い”構造に変わりつつある。だからこそ、AIを活かした柔軟な組織運営が競争優位を生む。」

AI時代のエージェンシー像

ピュブリシスは、AIを脅威ではなく成長の推進力として受け入れることで、従来型エージェンシーから脱皮しようとしている。サドゥーン氏は、「AIの波が広告業界を飲み込むとしても、それは“コダック・モーメント”ではなく“再定義の瞬間”になる」と強調する。AIを“置き換え”ではなく“拡張”として捉える姿勢こそが、ピュブリシスを新時代の広告ビジネスの中心に押し上げている。(出典:Adweek、画像:Publicis Group)

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