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ソニー・ピクチャーズはいかにして「ストリーミング戦争」に勝利したのか

参入しないという選択が生んだ独自の競争優位

ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントは、ハリウッドにおける熾烈なストリーミング競争をあえて回避するという決断を下し、結果として他社にはない安定した立場を築いている。

ディズニー、ワーナー・ブラザース、パラマウント、NBCユニバーサルなどがNetflixに対抗して自社ストリーミングを拡充する中、ソニー・ピクチャーズは独自の方針を貫いてきた。自社で配信プラットフォームを構築せず、コンテンツの供給者として複数の配信事業者とライセンス契約を結ぶ戦略である。この「慎重さ」が、縮小傾向にあるエンターテインメント業界において、財務的な健全性と機動力の両立を実現している。

親会社であるソニーグループ全体では、映画・テレビ事業はあくまで複数ある収益源の一つにすぎない。2024年度の売上高は、ゲーム&ネットワークサービス部門が約240億ドルで最大、次いでエレクトロニクス製品・ソリューション部門(約165億ドル)、金融サービス(約96億ドル)、音楽部門(約91億ドル)、そしてソニー・ピクチャーズが約90億ドルを占めている。つまり、映像部門は企業の「屋台骨」ではなく、長期的視点から育てることが可能なポジションにあるのだ。

株価の推移を見ると、過去5年間でソニーの株価は約53%上昇しており、ストリーミング事業への過剰投資で苦戦するディズニー(-9%)やパラマウント(-55%)と対照的な結果を示している。

コンテンツを「配信する側」ではなく「提供する側」に

ストリーミング事業に直接参入しなかったソニーだが、デジタル領域を軽視しているわけではない。代表例が、アニメ配信サービス「Crunchyroll」の買収である。買収後、同サービスは「Funimation」と統合され、会員数は300万人から1,700万人へと急成長した。さらに、ソニーはアニメを軸に、映画・ゲーム・イベント・グッズなどを連携させた“ファン・エコシステム”を構築している。

この成功を背景に、ソニーはバンダイナムコの株式を取得し、アニメ・マンガIPを中心にグローバル展開を強化している。NetflixやAmazonのような総合型ストリーミングとは異なり、ソニーは熱狂的なファン層を核にしたニッチ市場戦略で存在感を高めている。

また、ソニーはコンテンツを独占せず、あらゆるプラットフォームに供給している。Netflixとの間では「Pay 1 ウィンドウ」契約(公開後の独占配信権)を結び、その契約額は約10億ドルといわれる。さらにディズニーとも有料2ウィンドウ契約を結び、安定した収益とキャッシュフローを確保している。

劇場とテレビ、双方で存在感を維持

パンデミック以降、ハリウッド大手が劇場公開作品を減らす中、ソニーは依然として年間17本前後のワイドリリースを維持している。劇場収入と配信契約の両輪で収益を確保し、コンテンツ供給者としての交渉力を高めている。

テレビ分野でもソニーの存在は際立つ。年間約30億ドルを売り上げ、主要プラットフォーム向けに数多くのヒット番組を制作している。『ザ・ボーイズ』(Amazon Prime Video)、『ラスト・オブ・アス』(HBO)、『ザ・クラウン』(Netflix)など、世界的な話題作の多くがソニー制作だ。これにより、複数のストリーマーに収益を分散させることができている。

ストリーミング「不参入」の勝利

ディズニーやワーナーが巨額の投資を行いながらも収益化に苦しむ中、ソニーはライセンス供給によって安定した利益を得ている。ストリーミング・プラットフォームが乱立する現在、規模ではなく“柔軟性と収益性”で勝負する同社の戦略は結果的に功を奏している。

ソニー・ピクチャーズのアプローチは、**「自社プラットフォームを持たないことこそが最大の強み」**という逆説的な成功例である。IPを広く流通させることで、劇場、テレビ、配信すべてにレバレッジを効かせ、どの市場にも依存しない“ポジションの自由”を手にしている。(出典:Observer他)

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