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ハリウッドのスタントプロがアカデミー賞広告で魅せる技術

サムスン、ロレアル、カーニバル・クルーズなどのブランドが、ディズニー・アドバタイジング、キンメロット、マキシマム・エフォートと共同制作した広告に登場し、華やかなスタントを披露した。

スタントへのオマージュとしての広告キャンペーン

第97回アカデミー賞の授賞式中に放映されたCMには、ハリウッドのスタント技術を駆使したシーンが次々と登場した。カフェで乱闘を繰り広げるスーツ姿の男性たち、ガラスを突き破りヘリコプターから飛び降りる女性たち、砂漠に積まれたテレビを車で爆破するドライバーなど、迫力ある映像が展開された。

この広告は、スタントパフォーマーへのオマージュとして制作され、ロサンゼルスの映画業界が山火事の影響を受けながらも再生を続ける姿を象徴している。スタント・コーディネーターのクリス・デニソンは、「スタント・コミュニティへのラブレターとして制作された」と語り、「普段は舞台裏で活躍するスタントパフォーマーにスポットを当てることができたのは特別な経験だった」と述べた。

スタントとブランドメッセージの融合

制作には、ArtClass Content、Empire Stunts、More Media、Really Originalが協力し、ABCを通じて放映された。ロサンゼルスの2つの制作会社から150人以上のスタッフが参加し、75人以上のスタントパフォーマーが起用された。6つの広告のうち5つはロサンゼルスで撮影され、カーニバル・クルーズのスポットのみドミニカ共和国でロケを実施した。ヘリコプターからのジャンプは、ブルースクリーンを使用せずに実際に行われた。

各広告は、それぞれのブランドのメッセージとスタントを組み合わせる工夫がされていた。例えば、サムスンのCMでは、同社のギャラクシーS25シリーズのAI機能を活用し、『ジョン・ウィック』のような戦闘シーンを演出。Audio Eraser機能を用いることで、スタント落下の映像から不要な背景ノイズを除去する技術もアピールされた。

MntnのCMでは、スタント部門と特殊効果部門の連携を強化し、30秒の映像で最大限のインパクトを生み出す工夫が施された。デニソンは「最も重要な要素を厳選し、すべてを無駄なく構成することが求められた」と振り返る。

スタントのリアルな現場を描いたキールズの広告

特に注目を集めたのが、ロレアル傘下のキールズのCMだった。同ブランドにとって初の全国ネット広告となったこのCMでは、西部劇をテーマに、スタントパフォーマーの現場を描写。撮影の合間、馬を含む撮影クルーが昼食に行く一方で、スタントパフォーマーだけがリグ(安全装置)に固定されたまま待機するというシーンが展開された。これにより、同ブランドの「ベタースクリーンUVセラム」の耐久性と実用性をユーモラスに訴求した。

デニソンは「実際に現場でよくある状況を面白く再現した。スタントパフォーマーにはリグがついているため、リスクはほぼゼロだった」と説明した。

過酷な制作環境とチームワーク

このキャンペーンの制作スケジュールは厳しく、計画とチームワークが不可欠だった。クリスマス前から準備が本格化し、年明けには撮影が開始された。しかし、その時期にロサンゼルスでは大規模な山火事が発生し、多くのクルーメンバーが影響を受ける事態となった。

デニソンは「チームの何人かは直接的な影響を受けたが、それでも『仕事に取り掛かろう』という強い意志を持ち続けた。これは、ロサンゼルスの映画業界の精神が健在であることの証明でもある」と語った。

アカデミー賞とスタントの関係

アカデミー賞では、スタントパフォーマーを称える正式な賞は存在しない。しかし、近年では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『ザ・フォール・ガイ』といった作品がスタントの重要性を強調し、業界内での認識を高める動きが広がっている。この広告キャンペーンも、そうした流れを後押しするものとなった。

ハリウッドのスタント技術と映画制作の復興を象徴するこの広告シリーズは、視聴者に迫力ある映像とともに、スタントの裏にある努力と情熱を伝えるものとなった。

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