
高級ブランド、市場減速の中で戦略を見直す必要性—カーニー
経営コンサルティング会社カーニーの最新レポートによると、ラグジュアリーブランドは成長の鈍化と消費者の優先順位の変化に対応するため、市場戦略を再調整している。
「Winning in a Cooling Market: Strategies for Luxury Brands」では、高級ブランドのリーダーが厳しい経済環境を乗り切るための価格設定、オペレーションの回復力、顧客エンゲージメントに焦点を当て、業界の変化するダイナミクスを検証している。
カーニーの予測によれば、2027年までの世界のラグジュアリー市場の成長率は1~3%にとどまると見られており、ブランド各社は、主要な消費者層の購買力や嗜好に合わせた戦略を練る必要がある。
世代別消費動向と市場の課題
ブーマー世代とX世代は依然として市場で重要な役割を担い、世界の純資産の50%以上を保有し、高級時計、宝飾品、ラグジュアリートラベルなどの回復力のあるカテゴリーを牽引していると、カーニー・ニューヨークの消費者プラクティスの共同執筆者でありパートナーであるノラ・クライネヴィリングホーファー氏は述べている。
「Z世代はブランド志向が強いが、X世代はブランドへの忠誠心が強く、不況下でも支出を維持する傾向がある。ブランドは、パーソナライゼーション、VIPサービス、オムニチャネル体験を強化しつつ、伝統、クラフトマンシップ、持続可能なラグジュアリーの要素を強化する必要がある」と同氏は指摘する。
市場環境の変化と世代間の影響
現在の高級市場は新たな課題に直面している。
- 中国市場では景気回復にばらつきがあり、消費者の信頼感が低下している。
- 米国市場ではインフレ圧力と貿易の不確実性が市場の変動を加速させている。
- 高級旅行やグルメなどの体験型ラグジュアリーは依然として成長を続けている。
カーニーのレポートでは、消費者の行動は世代ごとに異なり、ミレニアル世代やZ世代に依存するだけでは、低成長環境では不十分であるとの見解を示している。
現在、世界の高級市場の消費者層の割合は以下の通りである。
- ベビーブーマー世代:市場の11%
- X世代:24%
- ミレニアル世代:45%
カーニーのブライアン・エーリッグ氏は、「ミレニアル世代やZ世代に比べ、団塊世代やX世代の購買力は市場の安定化に重要な役割を果たしている。彼らは純資産が最も多く、現在の金融や地政学的リスクの影響を受けにくいため、伝統的なブランドはこの層の顧客維持に注力するべきだ」と述べている。
一方、新興ブランドやインディーズブランドは、この成熟した消費者層にどのようにアプローチするかを考慮する必要がある。
独占性とアクセス性のバランス調整
ラグジュアリー業界では、「独占性」と「アクセス性」のバランスが変化している。
- 近年、高級品の価格上昇は一般的なインフレ率を大きく上回っており、2019年以降で一部の製品は価格が2倍になった。
- 価格上昇により、多くの潜在顧客が手の届かない存在となり、代替市場(リセールプラットフォームなど)が成長している。
企業は、消費者の価格に対する意識の高まりに対応するため、価値提案の精査が求められる。
- 品揃えの合理化により「決断疲れ」を軽減する戦略を採用する企業もある。
- 伝統的なクラフトマンシップやストーリー性を強化し、独占性を高めるブランドも増えている。
この動きの一環として、過去1年間で多くのブランドがクリエイティブ・ディレクターを新たに任命し、ブランド・アイデンティティの再構築を図っている。
デジタルとリアル店舗の融合戦略
デジタルコマースが拡大を続ける中で、実店舗は依然としてラグジュアリーショッピングの重要な拠点である。
- パリやミラノでは、高額消費をする観光客が売上を牽引しており、ラグジュアリー消費者の4分の3以上が、以前と同じ頻度またはそれ以上の頻度で店舗を訪れる予定だと回答している。
- ブランドは、VIPショッピング体験やオーダーメイドのコンサルティングなど、エンゲージメントを強化するリテール・イノベーションに投資している。
- AIを活用したレコメンデーションや拡張現実(AR)などのデジタル技術を導入し、店舗内での体験を向上させている。
サプライチェーンと持続可能性への対応
ラグジュアリー業界では、原材料の高騰、労働力不足、規制の強化により、コスト圧力が増している。
- AIを活用したサプライチェーン管理で無駄を削減し、効率化を図る企業が増えている。
- ラボで栽培されたテキスタイルや植物由来のレザーなど、持続可能でコスト効率の高い素材の採用が進んでいる。
また、製品開発の合理化により、生産効率を維持しながらカスタマイゼーションを強化し、テクノロジー主導の小売戦略で不正行為の検出やオペレーションの最適化を推進している。
冷え込む市場での成功戦略
カーニーのレポートは、ラグジュアリーブランドが短期的な収益性と長期的なブランド・エクイティのバランスを取ることが不可欠であると指摘している。
- Z世代に特化するだけでは不十分であり、インドや中東などの新興市場への進出も重要である。
- 価格と価値の整合性を磨き、オムニチャネル戦略を強化することが不可欠である。
ラグジュアリーブランドは、価格上昇と消費者行動の変化に適応しながら、デジタルとリアルの融合を進めることで、新たな成長の機会を創出する必要がある。(出典;A.T.Kearney, Luxury Daily他)