CMOはブランド構築の支持減とROI偏重の圧力に直面― NIQレポートが示すマーケティング運用の変化

CMOが長期的なブランド構築を推進するうえで、組織内部の風向きが変わりつつある。ニールセンIQ(NIQ)の新しい調査によれば、CEOおよびCFOが長期的なブランド投資を支援していると考えるCMOは69%となり、前年から11ポイント落ち込んだ。一方で、短期的な投資対効果(ROI)に対する監視は強まり、マーケティング費用全体が「精査の対象」になっているという。

長期的ブランド投資への支持が後退

NIQの「CMO Outlook:Guide to 2026」では、経済環境の不透明さとコスト削減要請を背景に、CEOやCFOが短期成果をより重視する傾向を強めていると指摘している。調査では、マーケティングリーダーの84%が予算配分時にROIを最重要指標として扱っており、ブランド構築のための長期投資に割ける余地が減っている。

さらに、ブランドの「目的」に自信を持つCMOは71%に低下しており、前年の83%から大幅に落ち込んだ。社会正義やサステナビリティを掲げるブランドが政治的反発に巻き込まれる状況が続くなか、ブランドパーパスの扱いが慎重になっていることが背景にある。

長期ブランド構築に予算の60%以上を投じるCMOは55%にとどまり、前年から4ポイント減少した。短期成果重視へのシフトが鮮明になりつつある。

データ断片化とROI測定の難しさ

短期的な成果の可視化が求められる一方で、CMOはデータ統合の困難に直面している。異なるデータソースをまとめることに苦労していると答えたCMOは54%に達し、昨年の31%から大幅に増加した。ROI測定に5〜15のツールを使用するという回答も3分の1にのぼり、マーケティングデータの断片化が進んでいることがうかがえる。

組織全体で共有可能な単一のデータ基盤を保有すると回答した企業は37%と少なく、効率的な意思決定を阻む構造的課題が残っている。

生成AIの活用拡大と成熟への期待

生成AIは効率化の推進力として期待されており、CMOの70%近くがコンテンツ制作にAIを使用している。また、64%がパーソナライゼーション、55%がメディアプランニングやキャンペーン最適化に活用している。しかし、まだ多くの取り組みは“実験段階”にあり、AIの成果を経営陣に対して明確に説明できるレベルには達していない。

NIQは、マーケティングチームがAIの仕組みや効果を理解し、自信を持って運用できるよう強化することが、ブランド成長の鍵になると述べている。

リテールメディアの存在感がますます拡大

チャネル戦略では、リテールメディアへの投資が続伸している。CMOの69%がリテールメディアを重要視しており、67%は2026年に投資を増やすと回答した。広告を購買地点に近づけ、ROIをより直接的に高められる点が評価されている。

NIQは、オンサイト広告とオフサイト広告を統合し、クロスチャネルデータをまとめて分析できる体制が2026年以降の勝者を分けると予測している。

効率から「証明」へ

NIQのマルタ・サイハン・ボウルズ氏は「マーケティング投資はすべて顕微鏡で覗かれている状況だ」と語る。CMOは効率性だけでなく、認知・売上・ロイヤルティへの貢献を定量的に説明できる体制を構築しなければならない。

ブランド構築への支援が弱まる一方、ROIへの要求は高まる。CMOはデータ統合、AI活用、リテールメディア戦略を駆使し、「短期成果」と「長期価値」の両立という難題に向き合う必要がある。(出典:NIQ, Marketing Dive)

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