
ジャガーが物議を醸したリブランドに固執する理由
ジャガーが新しいブランド戦略を打ち出してから10カ月が経過したが、依然としてSNS上では「悲惨」「覚醒的」など厳しい言葉が飛び交っている。SNSの批判は瞬時に拡散され、時に企業の方針転換を余儀なくすることもある。しかし、ジャガーは圧力に屈するのではなく、むしろ議論を引き受ける形でリブランドを進めている。ブランド側は「人々がリブランドの意図を誤解している」と説明し、長期的には戦略が成果をもたらすと強調している。
二極化を前提とした戦略
新しいブランド言語を象徴したのが、鮮やかなピンクで仕上げられたコンセプトカーの発表だった。従来の愛好家からは強い反発を受けたが、ジャガーにとって重要なのは万人受けではなく、新しいターゲット層への明確な訴求である。ロードン・グローバー社長は、「一部の人々を遠ざける可能性は承知の上だった」と語り、ブランド刷新の狙いが若い富裕層にあることを明言している。従来ジャガーを「中年男性向け」と見ていた層ではなく、文化やデザインに敏感な次世代の顧客にアピールする意図があるのだ。
ジャガーはもともと大衆向けではなく高級ブランドであったが、今回のリブランドでさらに高価格帯に集中する方向へ舵を切った。80,000ドル以下の車両の生産を終了し、今後の新車は130,000ドル以上で展開する計画である。販売台数の減少が報じられたが、同社は「量より質」を選び、少数精鋭の高級車でブランド価値を高める方針を打ち出している。これは、フェラーリやアストンマーティンのように「台数を追わない」戦略に近づくものである。
データが示す一定の成果
批判が続く一方で、リブランドの効果を裏付けるデータも存在する。ジャガーによれば、高所得層からの検索トラフィックは24%増加し、若年層でジャガーを「価値あるブランド」と認識する割合は20%上昇したという。つまり、従来の顧客の一部を失ったとしても、新しい層を獲得する方向性は確実に動き出している。リブランドから10カ月経っても話題の中心であり続けている事実自体、ブランド認知度を高める効果をもたらしているとも言える。
クラッカー・バレルがロゴ刷新をめぐる批判を受け、わずか数日で撤回したのとは対照的に、ジャガーは批判に抗わず戦略を貫いている。ロゴ変更のような「表層的な変更」を取り下げると、一時的には顧客離れを防げるが、長期的には「保守的で時代遅れ」という印象を固定化するリスクがある。これに対しジャガーは、オールドスパイスが過去に「年配男性のブランド」というイメージを打ち破り、ユーモアとデジタル戦略で若い層を取り込んだ成功例を意識しているとも考えられる。大胆な方向転換には常にリスクが伴うが、動かないことこそ最大のリスクになるという発想だ。
新型ジャガーの発売は来年以降となるが、今の段階でブランドはかつてないほど注目を集めている。SNS上での議論や批判が続くこと自体、ブランドが「文化的な存在」として再び認識されている証拠である。数年後にこの戦略が成功とみなされるかは不透明だが、少なくともジャガーは「話題にならない」という最悪の状態を脱している。ブランドが存在感を保ち、ターゲット層を拡大できるかどうかは、これから投入される新モデルが試金石となるだろう。(出典:Creative Bloq)