
EUによるメタとアップルへの制裁金、その背後にある地政学的対立
欧州委員会は、メタとアップルに対して計約7億ユーロの制裁金を科すとともに、欧州のデジタル市場法(DMA)への即時準拠を命じた。この措置は一見、単なる法的制裁のように見えるが、実際にはブリュッセルとワシントンの間で深まりつつあるテック覇権を巡る政治的綱引きの一端である。
制裁の中身と影響
今回の制裁において、アップルには5億ユーロ、メタには2億ユーロの罰金が科された。しかし、真に注目すべきは金額よりも、その背後にある拘束力ある命令である。メタには、ユーザーに対して「利用料を支払うか、個人データを提供するか」の選択を迫る仕組みを改めることが求められた。アップルに対しては、アプリ開発者がApp Store外の課金手段を案内できるようにすることが義務づけられた。両社には60日以内の対応が求められ、違反すれば世界売上の最大5%を日々の制裁金として支払うことになる。
この措置は、いわゆる「ゲートキーパー」企業の市場支配力を抑制し、スタートアップや中小事業者に公平な競争環境を提供しようとするEUの広範な取り組みの一環である。
米国との対立の火種
しかし、このタイミングでの強硬措置は、米国との貿易摩擦が高まりを見せている中で行われたものであり、純粋な法執行とは言い切れない側面がある。メタのグローバル公共政策責任者であるジョエル・カプラン氏は、「これは規制の皮をかぶった関税である」と強く反発した。アップルも、こうした決定がユーザー体験を損ね、自社の技術を無償提供させるような圧力だと警告している。
さらに、米国トランプ政権は今年、「海外の不当な規制措置からアメリカ企業を守る」とする大統領令を発出し、EUや英国に対し、技術関連法の見直しがなされなければ報復関税も辞さないと圧力をかけている。このように、企業への制裁を超え、欧米間の価値観や産業政策の衝突へと問題は拡大している。
英国の複雑な立場
この対立の余波は英国にも及んでいる。EUを離脱した現在も、英国は独自のオンライン安全法およびデジタル市場法案を推進しており、これが米国側の新たな反発を招いている。ホワイトハウスの内部メモでは、英国のデジタル規制がアメリカ企業に不利であるとして、制裁関税の可能性が示唆された。
皮肉にも、米国からの政治的圧力が、国内におけるデジタル規制の是非を問い直す契機になりつつある。英国では一部から、「かえってトランプ政権の介入が、過度な規制から救ってくれるかもしれない」とする声さえ上がっている。
欧州委員会の立場
欧州委員会は今回の制裁について、「貿易交渉とは関係ない」とし、「準備が整った段階で決定を下した」と説明している。しかしながら、予告なしに発表された記者会見や、主要委員の不在といった状況は、政治的配慮が介在していた可能性を否定しきれない。
今後の展開
現時点で、アップルとメタはいずれも今回の決定に対し控訴する方針を表明している。また、米国政府はさらなる対抗措置として、新たな貿易制裁を検討しているとされる。英国は、欧州と米国の板挟みになる中で、自国の規制方針をどこまで貫くのかが問われる。この争いは単なる企業規制の問題ではない。武器は法律、戦場はデータ、争点は「誰がデジタル経済の未来を定義するのか」である。(出典:AdAge、Drum、FinancialTimes他)