
日本と韓国のブランドが欧米市場で支持を広げる理由
日本や韓国発のブランドが、欧米市場で存在感を高めている。背景にあるのは、単純な「日本らしさ」「韓国らしさ」の輸出ではない。現地の消費者が感じる心理的なハードルを下げ、すでに存在する文化的な関心と接続しながら、ブランド固有の魅力を失わずに市場へ適応する戦略である。
アジアで育ったエリー・ハンセンは、幼少期からブランドと文化の関係を身近に感じてきたという。ハローキティやサンリオのグッズを集め、マギーのインスタントラーメンにハインツのトマトケチャップをかけ、アメリカのテレビ番組『ハワイファイブオー』『ファンタジー・アイランド』『マペット・ショー』などを夢中になって見ていた。
こうした体験を通じて、ブランドは単に商品を売る存在ではなく、知らない文化や世界に入り込むための入口にもなることを学んだ。この構造は現在、より大きな商業規模で繰り返されている。
かつて日本や韓国の飲料ブランドは、欧米では「珍しい輸入品」として扱われることが多かった。バーの片隅に置かれた特徴的なボトルや、専門食料品店で見つける少し変わった商品という位置づけである。しかし、現在の状況は大きく異なる。
サントリーは、2017年と比較して米国向けの日本産ウイスキー輸出量をおよそ2倍に伸ばしている。韓国のジンロは25年連続で世界売上No.1のスピリッツとなり、英国では2024年に売上高が年率73%の複合成長率を記録した。また、世界の食品宅配市場ではアジア料理が注文総数の32%を占めるとされ、ワイン売り場でもこうした需要を取り込むための再編が進んでいる。
つまり、これらはもはや「海外から来た珍しい商品」ではない。国内市場でブランドを築き、その強みを活かしながら海外へ展開するカテゴリーリーダーである。
重要なのは、製品そのものを輸出しているだけではないことだ。消費者がその製品の背景にある文化や生活様式に接触し、参加できる新しい方法まで設計している。そこに、日本や韓国のブランドが欧米市場で受け入れられる理由がある。
参入障壁を下げ、文化への入口をつくる
サントリーのウイスキー戦略は、その典型例である。山崎や響といったプレミアムブランドを「ウイスキー通」のための商品として展開するだけでなく、2016年には「トキ」を投入した。
トキは、より軽やかで若々しい位置づけを持ち、飲み方についても従来のウイスキーとは異なる提案を行った。その象徴がハイボールである。テイスティンググラスを手に取り、ストレートやロック、水やグラスの選び方、アルコール度数などを細かく意識する必要はない。ウイスキーに氷とソーダを合わせるだけで、食事にも合わせやすく、比較的軽やかに楽しめる。
欧米のウイスキー文化には、飲み方そのものに対する知識や作法が求められる場面がある。初心者にとっては、何を選び、どう飲むべきかが心理的な負担になり得る。ハイボールは、そうした「正しい飲み方」をめぐる緊張感を取り除き、すでにカクテル文化に親しんでいる消費者にとっても自然な入り口となった。
価格設定も重要だった。サントリーがニューヨークのバーを調査したところ、バーテンダーが同社の高級モルトをカクテルに使用しているケースが見つかった。しかし、その使い方では高価なウイスキーを大量に消費することになり、結果としてカクテルの価格も上昇する。
そこで「トキ」は約39ドルという価格帯に設定された。当時の日本ウイスキーとしては比較的手に取りやすい水準であり、消費者に最初から高額なプレミアムボトルを購入させるのではなく、バーで試してもらうことを前提とした商品設計である。
ここで重要なのは、ブランドの価値を下げたわけではないことだ。価格と飲み方という2つの障壁を下げることで、米国のクラフトカクテル文化と日本ウイスキーとの接点をつくったのである。
韓国のソジュにも、似た構造が見られる。ソジュは韓国で最も広く消費されている蒸留酒の一つで、透明で比較的アルコール度数が低く、ストレートや食事とともに飲まれるのが一般的だ。
欧米での普及には、2つの大きな潮流が重なった。ひとつは、若い世代を中心とした軽やかで低アルコールな飲み物への関心である。もうひとつは、K-POPやK-ドラマの世界的な広がりだ。
すでに韓国の音楽や映像作品に親しんでいる消費者にとって、ソジュはまったく未知のカテゴリーではない。一方で、まだ自分の生活には取り入れていない新しい文化として探索できる余地もある。つまり、既存の文化的関心を、飲食という新たな体験へ接続できる商品だった。
ロッテの事例も象徴的である。同社のソジュ事業は、米国でガロ社と流通契約を結んだ後、売上高が700%増加した。韓国でつくられた商品と、米国市場で確立された棚、物流網、販売ルートを組み合わせることで、文化的な関心を実際の購買へと変換したのである。
新市場への参入では、ブランド自身がすべてを構築する必要はない。すでに現地に存在する流通や販売の仕組みを活用し、文化的な関心を「買える商品」へと変えることも重要な戦略となる。
製品ではなく「参加できる文化」を売る
日本や韓国のブランドに共通しているのは、消費者に新しい商品を一から理解させようとしていない点である。むしろ、すでに魅力を感じている文化に参加するための新しい方法を提供している。
米国で広がったバブルティーもその一例である。成長を支えているのは飲料としての味だけではない。ドリンクのサイズや甘さ、氷、トッピングなどを自分で選べるカスタマイズ性、写真や動画にしやすい視覚的な特徴、友人と共有しやすい体験性が組み合わさっている。
タピオカパールは現在、台湾から米国への食品輸出品の中でも上位を占める存在となっている。オーストラリアでは、Gong ChaやChatimeが、カスタマイズでき、見た目にも特徴があり、SNS上で共有しやすいフォーマットを軸に成長してきた。顧客は単に飲み物を購入するだけでなく、その文化の一部を体験することができる。
日本のラムネにも同じ特徴がある。レモンライム風味の炭酸飲料としての味以上に、特徴的なガラス瓶とビー玉を使った栓が強い記憶を残す。瓶を開けるという動作そのものが商品の体験に組み込まれており、パッケージと飲用行為が一体となって差別化を生み出している。
この構造から導き出せるのは、製品の機能だけで競争しなくてもよいということである。消費者が「使ってみたい」だけでなく、「体験してみたい」「誰かと共有したい」と感じる仕掛けをつくることが、新市場では大きな意味を持つ。
一方で、海外展開だからといって自国の文化的な特徴を薄めればよいわけではない。ファッションでは、ユニクロ、無印良品、BAPEなどがそのことを示している。
ユニクロは米国市場で旗艦店をブランドの重要な接点として位置づけ、各地域の消費者から得られる知見を商品や展開方法に反映してきた。無印良品も、現地市場への拡大を急ぐのではなく、地域ごとの消費者理解を蓄積しながら事業を広げている。
ここで重要なのは、現地への適応とブランド固有の文化を対立させないことである。グローバル市場に進出するために、ブランドが文化的に「中立」になる必要はない。むしろ、国内で成功を生み出した独自の資産を理解し、その核を維持しながら、現地の生活や行動様式に合わせて変える部分を見極めることが重要である。
海外展開で問われるのは、「どこまで変えるか」ではなく、「何を変え、何を残すか」という判断なのである。
文化的な親近感が市場参入の起点になる
日本や韓国のブランドが欧米で支持を広げる事例から見えてくるのは、文化的な関連性が商業的な成功に先行するという構造である。
商品が店頭に並ぶ前から、その国の音楽、映像、食、デザイン、ファッションなどを通じて消費者との接点が生まれていれば、新しい商品への心理的な距離は縮まりやすい。そこに、手に取りやすい価格、分かりやすい飲み方、SNSで共有したくなる体験、現地で確実に購入できる流通網などが組み合わさることで、文化的な興味が実際の消費へとつながっていく。
もちろん、文化的な親和性だけで市場を獲得できるわけではない。流通、価格、販売パートナー、現地でのマーケティングなど、商業面での実行力は依然として不可欠である。むしろ成功しているブランドは、文化的な魅力と現地市場への適応、そして商業的な仕組みを別々に考えず、一体として設計している。
海外進出を目指すブランドにとって最大の課題は、自社のストーリーをそのまま海外へ移植することでも、逆に現地市場に合わせてすべてを変えてしまうことでもない。
自分たちのブランドのどの部分が人々の共感を生み、どの部分は現地の文化や生活習慣に合わせて「翻訳」する必要があり、どの部分は変えずに残すべきなのか。その境界を見極めることが重要なのである。
文化を輸出するのではなく、文化への入口をつくる。そして、その入口から消費者が自分自身の意思で入ってこられるようにする。日本や韓国のブランドが欧米市場で存在感を高めている背景には、こうした市場参入の設計思想がある。(出典:branding in asia、画像:Unsplash)
















