
JR東海とHilton、飛驒高山にホテル開業 新幹線「ゴールデンルート」外へ訪日客を誘導
JR東海と米ホテル大手Hiltonが連携し、岐阜県高山市に「Hilton Takayama Resort(ヒルトン高山リゾート)」を開業した。9月14日に開業式典が開かれ、JR東海の丹羽俊介社長は、高山が持つ多様な観光資源を生かしながら、快適で上質な滞在を提供する環境づくりに取り組む考えを示した。岐阜県の江崎禎英知事も、世界的なホテルブランドであるHiltonの進出は県全体にとって大きな意義があると期待を表明した。
同ホテルは、もともとJR東海のホテルブランド「ホテルアソシア高山リゾート」として営業していた施設である。2026年2月から改修を進め、今回Hiltonブランドとしてリニューアルオープンした。スイートルームは改装前の2室から5室へ増設し、Hiltonの上位会員やスイートなどの宿泊者が利用できる専用ラウンジも新設する。今回は一部を先行して開業し、2027年春には全283室が利用可能となる予定だ。
高山はすでに外国人観光客の人気が高い地域であり、歴史的な「古い町並み」は主要な観光スポットの一つとなっている。また、世界遺産の白川郷へ向かう際の交通拠点としても機能している。飛驒・高山観光コンベンション協会の山腰和重氏は、Hiltonの進出によって、特に高付加価値旅行を求める訪日外国人の個人旅行者を受け入れる環境が整うとみている。
高山市にはすでに高級ホテルやゲストハウスが存在するが、今回の施設は客室数が多く、客室面積も比較的広いことが特徴である。北陸の主要観光都市である金沢市では2020年にHyattが進出しており、両地域を比較しながら旅行先を選ぶ訪日客に対して、高山の宿泊環境を充実させる意味も大きい。山腰氏は、宿泊客の増加によって市内の飲食店やアクティビティーへの消費にも波及することを期待している。

高山を起点に、東海道新幹線から在来線へ訪日客を広げる
今回のホテル開業をJR東海が重視する背景には、交通と宿泊を組み合わせることで、訪日客の需要をより広い沿線地域へ取り込む狙いがある。高山駅へは名古屋駅から在来線特急「ひだ」で約2時間30分。東京、京都、大阪を東海道新幹線で結ぶ、いわゆる訪日旅行の「ゴールデンルート」からさらに足を延ばしてもらうことで、新幹線以外の区間も含めた旅行需要を生み出せる。
JR東海にとっては、東京・京都・大阪を直線的に移動するだけでなく、在来線沿線の地域を回遊してもらうことが、運輸収入の拡大にもつながる。そこで同社は、高山だけでなく、在来線エリア全体を対象とした訪日客向けの誘客策を進めている。
その一つが、2026年3月から展開している「Golden Route with the Shinkansen(ゴールデンルート ウィズ ザ シンカンセン)」である。新幹線を利用する定番ルートだけを紹介するのではなく、在来線を組み込んだ旅程も提案する取り組みだ。
例えば、在来線特急「南紀」を利用してアクセスできる世界遺産「熊野古道」などをテーマに、ウェブサイトやSNS、動画サイトを通じて情報を発信している。東京、京都、大阪といった訪日客が集中する都市だけでなく、その周辺や沿線にある自然、歴史、文化体験などにも目を向けてもらうことで、初回の訪日旅行だけでなく、2回目以降のリピーター需要にもつなげる考えである。
JR東海の担当者は、将来的にも旅行先として選ばれるためには、リピーターが楽しめる地域の魅力を発信することが重要だと説明する。定番の観光地に限定せず、沿線各地に存在する自然や文化体験など、多様な観光資源を紹介していく方針である。

JR線の外にも広げる「広域回遊型」のインバウンド戦略
JR東海の誘客戦略は、自社の鉄道路線だけに訪日客を呼び込むものではない。9月19日に名古屋市で開幕するアジア競技大会に合わせ、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、中部国際空港(セントレア)と連携した訪日外国人向けのデジタルスタンプラリーも開始した。
参加者が私鉄を含む複数の沿線地域を巡ってスタンプを集めると、トートバッグなどの景品を受け取れる仕組みである。ここでもJR東海は、自社路線の利用だけに誘導するのではなく、鉄道を使って移動できる広域の観光地を一つの旅行体験として提案している。
スタンプスポットには、名鉄線が通る愛知県常滑市や、近鉄線を利用してアクセスできる三重県志摩市など、JR線が直接乗り入れていない地域も含まれる。つまり、JR東海のネットワークだけで訪日客を囲い込むのではなく、他社路線も含めて地域間の回遊を促す発想である。
背景にあるのは、訪日外国人に対して「鉄道でアクセスできる地域には、まだ多くの魅力的な観光スポットがある」と伝えることで、旅行先そのものを広げていく狙いだ。
Hilton Takayama Resortの開業は、単なるホテル事業の拡大にとどまらない。東海道新幹線を軸にした大量輸送に加え、在来線や他社鉄道を組み合わせて訪日客の行動範囲を広げ、宿泊、飲食、アクティビティーなど地域内での消費まで取り込む。JR東海にとって、インバウンド需要を「新幹線の利用」から「沿線を回遊する旅行」へと広げるための新たな取り組みといえる。(出典:日本経済新聞、画像:Hilton Takayama Resort)

















