
ドイツサッカーリーグはいかにしてブランドを進化させたか
目次
「競技運営組織」から「真のスポーツブランド」へ
2010年、ブンデスリーガのコーポレートデザイン刷新コンペで勝利したのが、ドイツのブランディングエージェンシーMutaborであった。この時点で明確だったのは二つの事実である。ひとつは当時のCEO、クリスティアン・ザイフェルトが掲げた「ブンデスリーガを本物のスポーツブランドへ転換する」という野心。もうひとつは、その変革が単発の施策ではなく、長期的なプロジェクトになるという認識である。
DFLは、ドイツ国内のプロサッカーを統括する組織であり、ブンデスリーガおよびブンデスリーガ2部の運営、メディア権管理、商業活動を担う。ライセンス制度や財務規律を通じて競技の健全性を守る一方、放映権やスポンサー契約によって経済基盤を構築している。ブランド構築はその中核的資産であった。
2014年からブランドデザインを率いるトーマス・マーカートは、オンエアパッケージ、モーションツールキット、デジタルUX/UI、キャンペーン開発までを統括する。彼のパートナーが、Mutabor創業者兼CCOのハインリッヒ・パラヴィチーニである。両者は、社内外のハイブリッド体制でブランドの持続的進化を設計してきた。

2010年:象徴性の確立と色彩の再定義
最初の刷新が行われた2010年当時、デザイン界ではiPhoneに象徴される立体的で光沢のあるビジュアルが主流であった。ブンデスリーガもその潮流を意識しつつ、ロゴ中央のプレイヤー像を強調する方向へと舵を切った。ステッカー的な平面表現から脱却し、躍動感と象徴性を高めたのである。
同時に、優勝トロフィーに着想を得た赤・白・銀のカラースキームを核とする包括的ビジュアルシステムを構築。国際市場での識別性向上を狙った戦略的選択であった。ただし視覚言語は過度に磨き上げるのではなく、ドイツ36クラブが持つ地に足の着いたファン文化を反映し、あえて本物感を残した。
2013/14シーズン、リーグ創設50周年を機にオーディオブランディングも導入された。アンセム制作とサウンドキット整備により、視覚と聴覚を横断するブランド体験が完成した。
2017年以降:モーションファーストの設計思想
2017/18年の刷新は最大の転換点である。フラットデザインの潮流を取り入れつつ、「モーションファースト」を掲げた。サッカーという競技自体が常に動き続ける存在である以上、静止画中心の設計は不十分であるという判断だ。
プレイヤーアイコンは流線型に再設計され、独自書体の開発、拡張カラーパレットの導入、完全に独立したオンエアデザインシステムの構築が進められた。さらに2部リーグにも独自ロゴを与え、ブランド階層を整理。結果として、世界中の放送・商業パートナーが共通キットを活用できる環境が整備された。
eスポーツ部門「バーチャルブンデスリーガ」では、FIFAのUIから着想を得た三角形モチーフを採用し、ゲーム文化との接続を可視化した。この視覚言語は後年、EA Sports FCにも波及した。

2020年代:触覚性と3Dの再評価
2021年以降、ブランドは再び立体性と質感へ回帰する。分割タイル構造や回転モーションにより、デジタル適応性を保ちながら空間的奥行きを加えた。さらにデジタルブランドポータルを整備し、アセットのグローバル展開を効率化。モーションデザインにはアルゼンチンのスタジオNXTiDが参画した。

最新の刷新では、選手・ボール・スタジアムを象徴的に再構築。3D要素とテクスチャを組み合わせたグラフィックパッケージは、奥行きと触覚性を備え、用途に応じて「公式」トーンと「動的」トーンを切り替えられる拡張型システムとなった。AIもキービジュアル制作に活用され、実写と誇張的モチーフを融合させている。

2025/26シーズンに向けては、スタジアムの熱気を反映した特殊フォントを導入予定であり、タイポグラフィ面でも表現力を強化する。
ひとつのアイコンが示す15年の軌跡
15年間で5度の刷新を経ても、ブランドの核心は変わらない。俊敏なプレイヤーのシルエットは常に中心にあり続けた。変化したのは、その表現方法とメディア適応力である。
社内クリエイティブチームと外部エージェンシーのハイブリッド体制は、長期的進化を可能にする統治モデルとなった。単発キャンペーンではなく、3年ごとの大規模刷新を前提とした設計思想が、時代精神を吸収し続ける構造を生んだ。
今日、ブンデスリーガは単なるリーグ名ではなく、文化的ブランドアイコンとして機能している。満員のスタジアムと民主的クラブ構造という独自性を背景に、感情と識別性を両立させたグローバルブランドへと成熟したのである。(出典・画像:ブンデスリーガ、Creative Bloq)
















