2025年ラグジュアリー業界を貫いた再定義の潮流

2025年のラグジュアリー業界は、過去最高の成長記録を更新する年ではなく、ブランドのあり方そのものを見直す「再調整」の年として特徴づけられた。個人向け高級品市場の回復は、米国や中国といった主要市場においても想定を下回るペースにとどまり、自由裁量支出の抑制が続いたことで、富裕層と準富裕層の消費行動の二極化が一段と鮮明になった。
こうした停滞したマクロ経済環境のもと、ラグジュアリーブランドのマーケターは、単なるステータスシンボルを超えたブランドの存在意義を示すことを迫られた。その結果、キャンペーンの数自体は抑制された一方で、一本あたりの思想性や表現の密度は明らかに高まった。新製品の発表にとどまらず、アーカイブの再解釈やブランドの起源を語り直す試みが増え、量より質を重視したストーリーテリングが主流となったのである。
ファッション分野ではAI技術の活用や世界的セレブリティとのアンバサダー契約、スポーツや映画、アートとの連携が進んだ。加えて、中古市場の拡大を背景に、ブランドはインドや中東といった成長市場への進出を強化し、店舗設計や顧客体験の刷新にも注力した。自動車、時計、ホスピタリティといった周辺分野においても、没入型体験と由来性の訴求が共通のキーワードとして浮かび上がった。

ヘリテージと物語性を軸にした象徴的キャンペーン

こうした潮流を象徴する取り組みの一つが、ボッテガ・ヴェネタによる「クラフトは私たちの言語」である。同ブランドは、メゾンの象徴であるイントレチャートレザーの誕生50周年を機に、工芸そのものを言語として再定義するキャンペーンを展開した。モノクロームの肖像写真には俳優やアスリートに加え、過去と現在の職人が登場し、制作行為そのものが世代を超えて受け継がれる文化であることを示した。


また、LVMH傘下のグレンモーレンジは、ハリソン・フォードを起用した映像シリーズを通じて、スコットランドの蒸留所と180年に及ぶ歴史を物語として描いた。観光的演出に留まらず、限定ボトルや蒸留工程を織り交ぜることで、ブランドの芸術性と土地性を強く印象づけた。
LVMHグループ全体では、F1との長期パートナーシップを通じ、複数メゾンがモータースポーツの舞台で存在感を発揮した。ルイ・ヴィトンによるトロフィートランクの制作や、時計・ワイン&スピリッツ各ブランドの関与は、ラグジュアリーがグローバルな高揚感を共有する装置として機能し得ることを示した好例である。

現代的価値観への応答としてのラグジュアリー表現

2025年のキャンペーンの特徴は、祝祭性だけでなく、社会性や文化的文脈への踏み込みにもあった。イヴ・サンローラン・ビューティは短編映画「愛と呼ぶな」を通じ、親密なパートナー間暴力という社会課題に正面から向き合った。華やかな映像表現の裏側に潜む違和感をあえて露呈させる構成により、美容広告の常套表現を転倒させた点は特筆に値する。


一方、ロールス・ロイスはファントム誕生100周年を祝し、職人技とパーソナライゼーションを核としたグローバルキャンペーンを展開した。限定モデルの発表や国際的イベントへの出展を通じ、同車が単なる移動手段ではなく、文化的象徴であることを再確認させた。


ファッション領域では、ルイ・ヴィトンと村上隆の再協業が大きな話題を集めた。20年前のコラボレーションを起点に、年間を通じた三章構成の物語として再構築された本企画は、アーカイブを未来志向の創造資産として活用する可能性を示した。
これらの事例に共通するのは、ラグジュアリーが過去の栄光に安住するのではなく、工芸、文化、社会的責任といった価値を再編集しながら、現代の文脈に適応しようとする姿勢である。2025年は、ブランドが自らのアイデンティティを研ぎ澄まし、新たな基準を打ち立てた転換点として記憶される年となったのである。(出典:LUXURYDAILY、画像:ボッテガ・ヴェネタ、ロールス・ロイス)

関連記事一覧