リブランドで再び脚光を浴びるヴィクトリアズ・シークレット

2025年、ブルックリンのスタイナー・スタジオで開催されたヴィクトリアズ・シークレット・ファッションショーが華やかなフィナーレを迎えた。ピンクの紙吹雪の中、モデルたちが祝福を分かち合う光景は、ブランドが新たな局面に突入したことを象徴していた。

包括性を軸にした再出発

ヴィクトリアズ・シークレットは、2019年に長年続いた伝統的なショーを中止して以降、ブランドの再構築に取り組んできた。かつて批判を浴びた「細身・白人中心」の美的基準を改め、2024年にはサイズ展開や人材起用の多様化を進め、「完璧さ」ではなく「自信」を掲げる新しいメッセージを発信した。今回の生中継は、その改革を可視化する第二の試金石となった。

経営陣はこの方向転換を単なるイメージ刷新ではなく、失われた信頼を取り戻すための経営戦略と位置づけている。近年の投資家向け報告では「新規顧客獲得」と「ブランドの再認知」が主要な成果指標として強調されている。

市場アナリストは、「多様な人々がヴィクトリアズ・シークレットに自分を重ねられるようになれば、再び購買へとつながる」と分析している。経営陣も、2024年以降の包括的マーケティングを販売戦略の中核に据えていることを明言している。

ショーと販売の融合

今年のショーはキャスティング面でも明確な変化を見せた。さまざまな体型や経歴を持つモデルが登場し、アスリートやクリエイターもランウェイを歩いた。従来の「セクシー」の定義から脱却し、多様な自信の形を表現する場となった。

オープニングを飾ったのはポップシンガーのマディソン・ビール。彼女の若年層ファン層を意識した起用は、同ブランドがZ世代を中心に影響力を拡大しようとする姿勢を示している。
バックステージ映像や縦型動画の演出など、ソーシャルメディアを意識した構成が多く取り入れられた点も特徴だ。ファッションの枠を超え、ファンダムやバイラル拡散を意図した構成になっていた。

2024年が「復帰宣言」だったとすれば、2025年は「信頼検証の年」である。新生ヴィクトリアズ・シークレットは、果たして言葉だけでなく実際の行動で包括性を体現できているのかが問われている。

販売戦略としてのライブ体験

ショーの視聴者は単にランジェリーを観賞するだけでなく、その場で購入できる仕組みが整えられていた。ライブ配信やSNS用のショートクリップには購入リンクが埋め込まれ、視聴と購買がシームレスにつながる構造である。
これは、いわゆる「ライブコマース統合」と呼ばれる手法で、リアルタイムの注目を即売上へと変換する狙いがある。経営陣はこれを2024年の投資家向け発表で重要な戦術として説明しており、今回のショーで本格的に実装された形だ。

効果の判断材料となるのは、ショー後のオンライン・店舗トラフィック、そしてリピート購入の比率である。小売分析各社は、初回購入後60〜90日以内の再購入が今後の成長を左右すると指摘している。ブランド側も、「新規顧客増加」や「デジタルエンゲージメントの上昇」を成功の兆しとして挙げている。

多様性と話題性の両立

今回のショーでは、体操選手スニ・リーがホットピンクのコレクションを着用して登場し、大きな注目を集めた。SNS上では称賛の声が上がる一方で、彼女の体型に関する不適切なコメントも見られた。リー本人はTikTok上で「もういじめるのをやめて」と直接反応している。
この一件は、ブランドが「多様性」を打ち出す中で直面する現実的な課題を浮き彫りにしたと言える。

投資家にとって、このショーは単なるファッションイベントではなく、企業再生の象徴でもある。ヴィクトリアズ・シークレット(ティッカー:VSCO)は、ショーを宣伝媒体であると同時に、販売促進の要として活用している。

アナリストが注目するのは三点だ。①ライブショッピングによる即時販売効果。②若年層・多様層を含む新規顧客の再訪率。③サイズ拡大やコレクション多様化によるコスト増の中での利益率維持。これらをバランス良く実現できれば、単なるPRではなく、実際の業績改善が裏付けられると見られている。

    変革の取り組みと今後

    2025年のファッションショーは、かつての「エンジェルズ」時代とは異なり、より多様な表現と購買導線を融合させた総合的なブランドショーケースであった。アスリートやクリエイターを登場させ、「完璧」よりも「自信」を商品化する方向性は、メッセージとして鮮明である。

    もっとも、変革は道半ばである。視聴者の中には進化を評価する声もあれば、表面的だと批判する声もある。結局のところ、ヴィクトリアズ・シークレットが誠実に多様性を体現し続けられるか、そして視聴者がそれを「信じ、再び購入するか」が真の試金石となるだろう。この変化が一過性のブームで終わるのか、それとも新しい時代の幕開けとなるのか―今後の動向が注目される。(出典:Victoria’s Secret、bunewsservice.com、画像:iStock)

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