
信頼と話題性の間で揺れるブランドの現在地
ブランドが存在意義を保ち続けるためには、微妙な均衡が求められる。安全策を取り、現状維持に徹すれば消費者からの信頼は得やすいが、話題性は生まれにくい。一方、ソーシャルメディア上で積極的に発言し、文化的な議論に関与すれば、注目を集められる可能性は高まるものの、炎上や評価の急落というリスクも伴う。とりわけ若年層においては、ソーシャルプラットフォーム上で接触する情報が、ブランド認識を短期間で大きく左右する。
多くのブランドがSNSを通じて文化的関連性を築こうとする一方で、論争や逆風に耐えられるかどうかには大きな差がある。戦略が似通っていても、消費者からの信頼をより深く獲得できているブランドと、そうでないブランドとでは、結果に決定的な違いが生じる。
クエストブランドのマネージングディレクターであるジャスティン・ピンカス氏は、現代のブランドを「人間のような存在」と捉える。ブランドにはそれぞれ個性があり、人々はブランドについて語り合う。世代や属性によって魅力の感じ方は異なり、関連性を保つための戦略も多様化しているという。
「ブランド・モメンタム」という新たな評価軸
ハリス・ポール傘下の調査会社クエストブランドが発表した「ブランドリーダーのためのプレイブック」レポートは、ブランドの勢いを可視化するための指標として「ブランド・モメンタム」を提示している。同レポートは、ハリス・ポールの調査データと社内データを組み合わせ、主要業績評価指標(KPI)との相関関係を分析したものだ。
データは、米国人口構成を反映するよう設計された消費者パネルから日次で収集されている。ブランド・モメンタムは、競合と比較した際の成長軌道について、消費者の認識がどのように変化しているかを測定する指標である。スコアが20%を超える場合、消費者はそのブランドを「勢いのある存在」と見なしており、ゼロ付近の数値は停滞、あるいは後退を示唆する。
この指標は、単なる認知度や好感度では捉えきれない、ブランドの動的な評価を捉える試みといえる。
SheinとTemuに見る、論争耐性の差
報告書では、SheinとTemuが「論争を乗り切れるブランド」と「そうでないブランド」の対照的な事例として取り上げられている。Sheinはブランド・モメンタム23%を記録しており、戦略的なインフルエンサーとの提携や、購入品紹介コンテンツの拡散によって、TikTokをはじめとするプラットフォームで急速な成長を遂げた。労働慣行や規制リスクに対する監視が強まる中でも、マイクロトレンドを巧みに取り込み、消費者の関心を維持している点が評価されている。
一方、Temuはブランド・モメンタム27%と、数値上はSheinを上回る水準にある。しかし、極端な低価格戦略が関税問題や規制リスク、さらには消費者信頼の低下を招き、守勢に立たされている。欧州での広告投資拡大や物流改善といった施策を講じたものの、失われた勢いを取り戻すには至らなかった。ダメージはすでにブランド認識の深部にまで及んでいたといえる。
ピンカス氏は、Temuについて「認知度と親近感は急激に高まったが、莫大な投資によって作られた勢いは短命だった」と指摘する。マーケティングには限界があり、最終的には製品そのものと企業の質がブランドの評価を決定づけるという。
勢いを持続させるブランドと失速するブランド
ブランドの勢いを維持することは容易ではない。新興ブランドはSNSで一時的な注目を集めることができても、歴史や信頼の蓄積が不足している場合、その勢いは急速に失われる可能性がある。フィットネス機器メーカーのペロトンは、その典型例である。パンデミック期に急成長を遂げたが、ジムの再開とともに需要が減少し、大きな反動を受けた。
ピンカス氏は、「バブルが崩壊したときに支えとなるのは、信頼や品質といった基盤である」と述べ、ペロトンにはその下支えが十分ではなかったと分析する。
一方で、長い歴史を持ちながら勢いを維持しているブランドも存在する。ワークウェアブランドとして知られるカーハートは、若年層やストリートウェア愛好家へと支持層を広げることに成功した。ブランド・モメンタム26%を記録する同社は、品質へのこだわりという伝統的価値を軸に、現代文化との接点を築き続けている。
文化的関連性とは、単にトレンドに乗ることではなく、現在の議論や価値観をどれだけ形作れているかという問いである。ピンカス氏は、「誰にも知られず、語られないブランドが高い信頼を得ていたとして、その価値はどこにあるのか」と問いかける。ブランドが生き続けるためには、信頼と同時に、語られ続ける存在であることが不可欠なのである。(出典:MARKETING DIVE、画像:iStock)
















