ドランクエレファント、バイラル成功の代償とブランドの迷走

資生堂が買収した後のスキンケアブランド「ドランクエレファント」は、売上減少が深刻化する中で、かつて自社の成長を牽引したとされる「セフォラキッズ」と距離を取る姿勢を鮮明にしている。最新キャンペーン「Please Enjoy Responsibly(節度ある楽しみを)」は、明確に21歳以上の消費者を想定したものであり、若年層の流入を黙認、あるいは歓迎してきた過去のスタンスからの転換を示唆する内容である。
しかし、この方向転換に対する消費者の反応は割れている。短期的な話題化と急成長をもたらしたバイラル現象は、同時にブランドの信頼性を揺るがす結果も招いた。2025年を通じて売上は大幅な減少を続け、かつて勢いを誇ったブランドは、いわば“二日酔い”の状態に陥った。節度を訴える現在のメッセージが、果たして信頼回復につながるのか、それとも過去を都合よく書き換える試みと受け取られるのか、消費者の評価は定まっていない。

クリーンビューティーの旗手から再建局面へ

ドランクエレファントは2013年、創業者ティファニー・マスターソンによって立ち上げられた。香料や着色料、精油などを含む「疑わしい6成分」を排除し、「クリーン」でありながら科学的根拠に基づいた処方を掲げた点が、同ブランドの原点である。2010年代にクリーンビューティーが注目を集め始めた潮流と合致し、信頼性と楽しさを併せ持つ存在として急速に支持を広げた。
鮮やかな色使いのパッケージと分かりやすい製品設計は、セフォラにおける成功を後押しし、2019年には資生堂が約8億4,500万ドルで同ブランドを買収した。マスターソンは最高クリエイティブ責任者として関与を続け、2025年5月に日常業務から退くまでブランドの方向性に影響を与えていた。
しかし、買収後の展開は順風満帆とは言い難い。2025年夏、資生堂アメリカが再建局面に入る中で、ドランクエレファントも打撃を受けた。2025年第1四半期の売上高は前年同期比で約65%減少し、大規模な人員削減が行われた。複数の元従業員は、資生堂とドランクエレファントの企業文化の違いが摩擦を生んだと証言しており、意思決定の遅さやブランド理解の不足に対する不満も公にされている。

セフォラキッズ現象と信頼回復への試練

ブランドの浮沈を決定づけた要因の一つが、いわゆる「セフォラキッズ」と呼ばれる若年層の熱狂的支持である。2023年以降、TikTokを中心にジェネレーションAの子どもたちがドランクエレファント製品を買い求める様子が拡散され、社会的な議論を呼んだ。2024年初頭には前年比77%の売上増、米州地域で90%の成長を記録し、SNSフォロワー数も3倍に拡大。代表商品であるプロティニモイスチャライザーは、発売から6年を経て全米トップの保湿剤となった。
一方で、10歳前後の子どもが有効成分を含むスキンケア製品を使用することへの懸念は強く、ブランドが意図的に若年層を狙っているのではないかという批判も噴出した。マスターソン自身は、強い成分の使用を推奨していないとしつつも、若い消費者の利用を明確に否定することはなかった。この曖昧な姿勢が、ターゲット層の定義を不明確にし、結果としてブランドイメージを不安定なものにしたと指摘されている。
投資家であり業界関係者のリッチ・ガーステンは、こうした状況を「バイラル性の両刃の剣」と表現する。爆発的な短期成長は実現したものの、基盤が伴わなければ長期的な成長は脆弱になる。その言葉通り、ブームが去り、類似商品が市場に溢れると、ドランクエレファントは急激な失速に直面した。
現在、ブランドは再び成人層、とりわけ21〜30歳を中心とした消費者の信頼を取り戻そうとしている。しかし、パッケージや製品名に大きな変化はなく、ソーシャルメディア上では「本質的な変革が見えない」との声も多い。年齢層を意識したメッセージ転換だけで、失われた信頼を回復できるのかは不透明である。
ドランクエレファントが本気で再生を目指すのであれば、スローガンの刷新以上に、誰のためのブランドなのかを明確に定義し直す必要があるだろう。2026年が復活の年となるのか、それとも転換に失敗した象徴として記憶されるのか。その行方は、言葉ではなく行動によって判断されることになる。(出典:BeautyMatter、画像:iStock)

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