
サウンド。その先へ。────バング&オルフセン、創業100周年が示すブランドの時間軸
デンマーク発のオーディオブランド、バング&オルフセンが創業100周年を迎えた。同社はこれを単なる節目としてではなく、ブランドの思想と時間軸を再提示する機会として位置づけている。その象徴となるのが、記念映像を軸に展開される一連のアニバーサリー施策である。
プロダクトを超えて語られる「文化との接点」
公開された映像は、特定の製品訴求を前面に出すものではない。ひとりの女性がさまざまな空間や時代を横断するように踊り、移動する構成を通じて、ブランドが人々の暮らしや文化的瞬間に寄り添ってきた歴史を描いている。1950年代のテレビで衛星打ち上げを見守る場面から、現代のハイエンドスピーカーやヘッドホンへと連なるシーン展開は、製品そのものよりも「音と映像が生活にどう組み込まれてきたか」を主題としている。
ここで描かれるのは、テクノロジーの進化史ではない。むしろ、音響機器が人と人との関係や感情、記憶と結びついてきたという、ブランドの解釈である。バング&オルフセンが長年強調してきた「プロダクトは体験の一部である」という思想が、映像表現として再構成されている。
同社CEOは、創業者が掲げた「最高のものだけを創り続ける」という姿勢が、100年を経た現在も経営判断の根幹にあると語っている。注目すべきは、この理念が過去への敬意としてではなく、現在進行形の指針として語られている点である。
一つひとつの製品における手作業の工程や、既存の枠組みにとらわれない挑戦を重ねる姿勢は、ラグジュアリーブランドとしての差別化要因であると同時に、量的成長よりも質的価値を重視する戦略の表明でもある。バング&オルフセンにとって「音」とは機能ではなく、ライフスタイルや価値観そのものを形づくる要素だという立場が、明確に示されている。
グローバル展開と次の100年への布石
100周年の取り組みは映像にとどまらない。コペンハーゲンを起点に、上海、東京、ソウル、ニューヨーク、ロンドン、パリといった主要都市でイベントや展示を展開し、ブランドの文化的文脈を各地で共有している点も特徴的である。これは販売促進というより、ブランドの世界観を「場」として体験させる試みといえる。
さらに2026年には、ライフスタイル領域に踏み込んだカプセルコレクションや、音と映像の思想をまとめた書籍の発表も予定されている。プロダクト、空間、言語化された思想を横断的に展開することで、同社は次の100年に向けたブランドの輪郭を描こうとしている。
バング&オルフセンの100周年は、過去を回顧する記念事業ではない。音響機器メーカーという枠を超え、「人の暮らしとテクノロジーの関係をどうデザインするか」という問いを、改めて市場に投げかけるブランド戦略の一環である。(出典:LUXUARY DAIRY、画像:iStock)
















