
デサント:直販シフトと「プレミアムスポーツブランド」への転換
スポーツウエアメーカーのデサントは、卸売り依存からの脱却を掲げ、ブランドの立て直しを図っている。直営店と自社ECを軸にした販売体制を広げ、冬と夏それぞれの「看板商品」を育てることで、プレミアム路線への転換を進めている段階である。デサントブランドに限れば国内売上の約半分がすでに直販となりつつあり、「プレミアムスポーツブランド」として再成長できるかどうかが問われている。
1935年創業のデサントは、長年スポーツウエアを核に事業を拡大してきた。サッカー用品「アンブロ」や競泳水着「アリーナ」などのブランドを抱え、国内では量販店経由の卸売りが売り上げの大半を占めてきたが、2021年からは基幹ブランド「デサント」について、直営店と自社オンラインストアを通じたDtoC(Direct to Consumer)モデルへ大きく舵を切った。
この「脱・卸売り」を主導したのが、2019年に社長に就任した伊藤忠商事出身の小関秀一氏である。小関氏は、量販店経由では他ブランドとの価格競争に巻き込まれ、品質の高さが十分に伝わらなかったと振り返る。売り上げ目標を追うあまり大量生産・大量供給に傾き、その結果として売れ残った商品の値引き販売が常態化し、利益率の低下だけでなくブランド価値の毀損も招いていた。
毀損したブランド価値を取り戻すため、まず取り組んだのが直営店の立地戦略の見直しであった。2021年には郊外のショッピングモールに約66平方メートルの小型店を開業し、その一方で銀座と渋谷の路面店を改革した。遠方からの来店が見込める都心と、地元客が中心となる郊外という対照的な立地で出店し、どちらがデサントブランドに適合するかを検証したのである。
家賃負担が重い都心店は赤字リスクも高いため、当初は家賃を本社負担とし、店舗スタッフのモチベーション維持を優先した。結果として、出店からおよそ3年で郊外・都心ともに黒字化を達成し、とりわけ購買力の高い顧客が集まる都心店では売り上げの伸びが顕著になったことから、今後は都市部を中心に店舗網を広げる方針である。
DtoCは卸売業者を介さないため中間マージンが発生せず、利益率を高く維持しやすい。販売価格や商品構成、プロモーションについてメーカー側が主導権を握れる利点もある。新丸ビル店の小貫雅広店長は「店舗での会話や接客を通じて、顧客の要望をそのまま本部に伝えやすくなった」と語る。デサントは2027年3月期までに、デサントブランド国内売上高に占める直販比率を80%まで引き上げる計画である。
旗艦店舗と直販チャネルが生むブランド体験
平日夕方の「デサント 新丸ビル」(東京・千代田)には、会社員や訪日客が足を運び、商品を手に取りながら質感やシルエットを確かめていた。落ち着いた色調と高級感のある店内には、主力の「水沢ダウン」をはじめとする秋冬アウターが並び、スポーツショップというより都市型のセレクトショップに近い世界観が広がる。

「以前ここで購入した服が良かったので、通勤用を探しに来た」と話す50代の男性会社員は、機能性を重視してシェルジャケット「クレアス」を購入した。アウターを検討していた40代男性も「他のスポーツブランドと迷ったが、フォーマル寄りのデザインで通勤にも着ていける」と、デサントを選んだ理由を口にする。
新丸ビル店は2023年に開業し、ウエアのほかシューズやバッグも取り扱う。2025年には改装によって売り場を約2倍に拡張した。小貫店長によれば、「インバウンド客1人当たりの購入点数が増え、客単価も伸びている」といい、直営モデルが「体験としてのブランド価値」と「高単価商品」を結びつけていることがうかがえる。
こうした店舗では、単に商品を並べるだけではなく、「ものづくりのデサント」を前面に押し出す見せ方が重視されている。「工場のブランド化」と称し、国内工場をストーリーの軸に据えるマーケティングに比重を移している点が特徴だ。工場名を冠した「水沢ダウン」に加え、奈良県の吉野工場で生産し「200回洗っても襟が崩れにくい」と訴求する「10年ポロシャツ」など、製造拠点と品質をひとつの物語として提示する商品が店頭を支えている。
こうした直営店と自社ECは、顧客とのダイレクトな接点であると同時に、商品企画や品質ストーリーを立体的に伝える場でもある。デサントにとって、販売チャネルの転換は、単なる流通構造の変更ではなく、「ブランドがどう見られたいのか」を再定義するプロジェクトそのものとなっている。
「水沢ダウンの次」を育てる商品戦略と工場リニューアル
商品戦略の中核にあるのは、国内生産と高価格帯を前面に出したプレミアム路線である。1着10万円を超える「水沢ダウン」は、発売から15年以上経った現在もブランドの象徴的存在であり続けている。しかしマーケティング担当部長の塚田裕介氏は、「水沢ダウンは冬物の看板であり、春夏シーズンを代表する『核商品』がないことが課題だった」と語る。

そこで「水沢ダウンの次」を育てるべく開発されたのが、高機能ポロシャツ「オリエリ」である。価格は1着1万7600円からと一般的なポロシャツに比べて高価だが、ゴルフ用途やビジネスカジュアル需要を取り込みヒット商品となった。2023年春夏に販売を開始し、2025年4〜6月期の販売枚数は前年同期比2.4倍、DtoCでの販売実績は2年間で3.7倍に増え、現在ではデサントブランド内で販売数トップのアイテムとなっている。
オリエリのこだわりは、襟などに使用される独自の接着技術にある。スキーウエアで得たシームテープや熱圧着のノウハウを応用し、シャープな襟のラインと、洗濯を重ねても形崩れしにくい構造を両立させた。「ボトムスなど他アイテムへの転用も検討している」と塚田氏は語り、技術を起点にしたライン拡張を視野に入れている。

こうした「技術と価格に裏打ちされたプレミアム商品」を支えるのが、工場そのものの刷新である。岩手県奥州市の水沢工場は約30億円を投じて改装され、2025年7月に新たな設備と環境で稼働を開始した。1970年の操業以来、およそ半世紀ぶりの大規模リニューアルである。
水沢工場は2008年から水沢ダウンの製造を担い、地元出身者を中心とする約50人のスタッフが年間2万5000着を生産している。改装の目的は、ダウンの生産量を機械的に増やすことではない。水沢ダウンは163のパーツと280の工程からなり、0.1グラム単位のダウン量調整や独自の接着など、職人の目と手に依存する作業が多い。「水沢工場は人が命であり、少しでも長く働いてもらうことが水沢ダウンの品質を左右する」と、工場長の杉浦剛氏は語る。
新工場では動線や空調を見直し、台車に載せた荷物の受け渡しがしやすいレイアウトを採用した。女性や高齢の従業員も多いため、段差をなくしたバリアフリー設計とし、食堂などの共用スペースも充実させている。頭上には杉材で覆われた電源レールを設置し、作業台の配置や機器の自由度を高める工夫も施されている。

もともと水沢工場はスキーウエアの生産を担っており、本社主導でその技術をダウン製造に応用したのが水沢ダウンの出発点だった。開発を担当した谷木徹氏は「一般的なダウンより工程が多く、当初は利益が出ないのではと心配だった」と回想する。立ち上げ期は数百枚規模での生産にとどまり赤字が続いたが、現在ではブランドを象徴する看板商品に育った。デサントはこの「工場と職人を前面に出した物語」を、次のフラッグシップ商品づくりにも活用しようとしている。
競争環境の厳しさと、ブランド成長に向けた次の一手
ブランド刷新を進める一方で、デサントを取り巻く競争環境は厳しさを増している。2026年3月期の連結売上高は前期比3%減の1240億円を見込んでおり、中国事業が売り上げをけん引しているものの、日本と韓国の減収を補い切れない見通しである。国内では卸売り縮小の影響で減収傾向が続き、ビジネスモデル転換期ならではの「売上の谷」にあると言える。
2025年3月期には、売上高でゴールドウインに追い抜かれ、国内スポーツ用品市場においてデサントは4位へと後退した。ゴールドウインは2026年3月期に売上高1405億円(前期比6%増)を見込んでおり、両社の差はさらに広がる公算が大きい。小関社長は「5年後をめどに売上高1700億円を達成したい」と中長期の目標を掲げるが、その実現には国内外でのブランド認知とプレミアム戦略の両立が不可欠である。
調査会社サカーナ・ジャパンによれば、2024年のスポーツシューズ・アパレル市場規模は2019年比12%増の1兆3800億円であり、平均単価は前年比10%増の5118円と高価格化が進んでいる。スポーツ利用にとどまらず、日常着や通勤着としてスポーツブランドを選ぶ消費者が増えていることが背景にある。デサントの「クレアス」や「オリエリ」がビジネスシーンで選ばれている事例は、この潮流を象徴している。
一方で、競合他社もDtoCを積極的に拡大している。立命館大学スポーツ健康科学部の種子田穣教授は「DtoCは顧客情報を直接得られる反面、競争範囲が一気に広がる。知名度の高いブランドほど有利に働く」と指摘する。直営店や自社ECは「ブランドを目的に訪れる人」が中心となりやすいため、認知が弱いブランドにとっては新規顧客と出会う機会をつくりにくいリスクもある。
それでもデサントは、ブランド成長への道筋は見え始めたと捉え、改革を次のステージへ進めようとしている。直販シフトに舵を切ってからおよそ5年が経ち、小関社長は「世間からようやく評価され始め、ここからが本格的なスタートだ」と語る。「デサントだから買う」というファンをいかに増やしていくか。水沢ダウンに続く柱を育て、ものづくりとプレミアム路線を結びつけた「プレミアムスポーツブランド」として存在感を高められるかどうか、同社の挑戦はこれからが本番である。(出典:デサント、日経新聞他)
















