
ゲームは「メディアチャンネル」ではない:ブランドが向き合うべき現実
ゲームが重要な理由
ゲーム産業は巨大でありながら、一枚岩として捉える発想は、文化的・社会的インパクトを活かしたいブランドにとって有効ではない。2028年までに世界のゲーム収益(広告除く)は2,065億ドルに達し、現在から2028年までの年平均成長率は約3%と見込まれる一方、ゲーム領域への広告投資は依然として世界の広告費の約5%にとどまる。約34億人に及ぶプレイヤー規模や文化的影響力に、広告の配分が追いついていないのが現状である。
ひとつの「チャンネル」ではなく多面的な「入り口」
IAB UKのMedia Upfrontsで、PHD MediaのGlobal Head of Gaming & Virtual ExperienceであるJamie Lyons氏は「ゲームはメディアチャンネルではない」と指摘した。重要なのは、ゲーム観衆への“到達”を単一の媒体購入ではなく、複数の関与手法(ゲーム内施策、コマース連動、配信者/コミュニティ協業、イベントなど)のポートフォリオとして設計することだという。
Z世代の多くにとって、ゲームは番組視聴のように受動的に“観る”対象ではなく、歯磨きのように日常的で反復的な“行為”である。したがって「視聴者」というより「活動参加者」への関与発想が求められる。
新しいコネクション設計:ソーシャルが“たむろする場”に
ソーシャルメディアが放送的プラットフォーム化する一方、Robloxのようなゲーム起点の空間は“集う場所”として機能している。かつてメタバースが脚光を浴び、すぐに失速したが、その過程でゲームのバーチャル体験価値は過小評価された側面がある。ブランドは「チャンネル買い」ではなく、ゲームを文化圏・コミュニティ圏として扱い、相互作用を前提とした設計に切り替えるべきである。
新しいビデオ機会:クラウド化と広告モデルの転換
プラットフォーム側も流通と収益モデルを更新している。コンソール/ハード中心からクラウドへの移行が進み、マイクロソフトのクラウドゲーミングでは「Game Pass」で広告付きサブスクリプションを試行する動きが出てきた。これはSVODからAVODへと広がる“もう一つの大画面ビデオ枠”を創出し、テレビ/映画型の没入的で情緒訴求に向いたインベントリーをゲーム文脈で提供しうることを意味する。
価格とインパクトのミスマッチ
文化浸透とスクリーン接触が桁違いに大きい一方で、ゲーム関連の媒体価格は、その影響力に比して割安に放置されているケースが多い。過去にデスクトップとモバイルでクリック単価に乖離が生じたように、ゲームでも実勢の価値が十分に反映されていない。市場が成熟するにつれ、「ゲーミングをめぐる新しい語彙」が形成され、取引の基準や評価指標が再定義される局面に入るだろう。
実務への示唆
- チャンネル発想からポートフォリオ発想へ:ゲーム内広告、配信者コラボ、eスポーツ、UCG/UGC、ロケーション連動などを統合し、到達と関与の両立を図る。
- コミュニティ中心のクリエイティブ:受動的視聴前提の素材から、参加・共創・報酬設計を含むクリエイティブへ。
- 測定と評価の更新:視聴完了やクリックに加え、滞在・参加・ソーシャル拡散・コマース連動などゲーム特有のKPIを採用。
- 価格の見直し機会:割安な在庫や新生AVOD枠を先行確保し、学習曲線の優位を築く。
まとめ
ゲームは“媒体枠”ではなく“文化圏”であり、“視聴者”ではなく“参加者”の活動である。クラウド化と広告モデルの転換、コミュニティ化するプレイ空間という潮目を捉え、複合的な関与戦略と新しい評価軸で臨むことが、ブランドの成長余地を最大化する近道である。(出典、画像:WARC)