
THA:「White Lotus」が示すタイの目指す“高級リブランディング”
HBOの人気ドラマ『ホワイト・ロータス』シーズン3では、タイのラグジュアリーリゾートが舞台となり、裕福な観光客が集まる姿が描かれている。だが、これはフィクションに限った話ではない。近年、タイ政府は長年続いた「バックパッカー天国」というイメージを刷新し、高所得層をターゲットにした“リブランディング”を着実に進めている。
変化の兆候:ビザ政策の見直し
2024年、タイ政府はビザなし滞在期間の短縮を発表。バンコク・ポスト紙によれば、滞在可能日数の制限強化の背景には、長期滞在を利用して国内で不法に働く外国人の急増があるという。一見、規制強化に見えるが、実際には“消費力の高い観光客”を重視する方向性が色濃く反映されていると捉えられている。
タイの旅行会社によれば、現在の政策は「魂の探求」に訪れるような長期滞在型のバックパッカーやスピリチュアル・トラベラーにとっては不都合な変化であるという。
変貌するタイの観光地:高級リゾートの台頭
過去には、タイといえば安価で長期滞在が可能な「自由の楽園」というイメージが定着していた。しかし、近年は大きな転換を見せている。バンコクではここ5年の間に、ケンピンスキー、ローズウッド、インターコンチネンタル、スタンダードといった世界的な高級ホテルブランドが相次いで進出し、今月にはアマンも新規オープンを予定している。
さらに、タイ国内には現在36軒のミシュラン星付きレストランがあり、マイアミやドバイを上回る数を誇る。こうした動きは、「ラグジュアリー・デスティネーション」としてのブランディングを強化する明確な戦略の一環である。
魅力の拡張:島々の高級化と米国市場への注目
プーケットやサムイ島などの人気リゾート地では、フォーシーズンズやアナンタラ、アマンプリ、チバソムといった高級ウェルネスリゾートが続々と観光客を迎えている。一部のリゾートでは、プライベートアイランドに1泊14,000ポンド(約270万円)で滞在することも可能だ。
アメリカの高所得層がリピーターとしてタイに注目していることも、この変化を後押ししている。米国の高級旅行プランナー、Ker & Downeyのヴァネッサ・ニーヴン氏は、「体験型の観光や文化的な深みがある土地へのニーズが高まっている」とし、バンブー・ラフティングやエレファント・サファリなどを含む旅程には2万ドル超の予算が組まれることもあるという。
タイのこのリブランディングは、イビサ島のようなレイブ文化からウェルネス志向へのシフトや、モロッコのラグジュアリー化、さらにはカタールやサウジアラビアがスポーツイベントを通じて富裕層を惹きつける戦略と軌を一にしている。
旅行業界の専門家によれば、こうした高価格帯市場の開拓は、パンデミック後の観光復興において不可欠なステップであり、経済的にも持続可能性を意識した動きといえる。
バックパッカーはどこへ?
タイが新たなステージに移行するなかで、これまでの“バックパッカーの楽園”という顔が徐々に消えつつある。かつてこの国を世界地図に載せたのは、無一文でも旅に出て、ソファサーフィンやレンタルバイクでの冒険を楽しんだ旅人たちだった。
今後、そうした次世代の“旅する若者”たちはどこに向かうのか。そして、その地がまた、数年後に新たなラグジュアリー・スポットとして再構築される日が来るのか――それは、旅の自由と経済戦略が交差する現代における興味深い問いとなっている。(出展:Yahoo Life, Telegraph他)