AIがメディアを席巻する時代、マーケターはいかにAIのバイアスと向き合うべきか

AIの急速な進化によって、マーケティングにおけるメディア活用のあり方も大きく変わりつつある。AIを組み込んだ広告プラットフォームは、メディアの買い付けからコスト管理、成果の最適化まで、これまで人間が担ってきた多くの判断に関与するようになった。

一方で、AIを活用すればするほど、マーケター自身がその判断をどこまでコントロールできるのかという問題も浮上している。
ガートナーの調査では、2028年までに世界の広告費の70%以上が、AIによってメディア購入やコスト、パフォーマンスに「実質的な影響」を受けるセルフサービス型広告プラットフォームを通じて支出されると予測されている。米国に限れば、その割合は80%を超える見込みである。

マーケティング業界では、業務の効率化や複雑な課題への対応、急速に変化するデジタル環境への適応を目的に、AIへの依存度が高まっている。特にメディア領域ではその動きが顕著である。
しかし、AIは万能な意思決定者ではない。ガートナー・マーケティング・プラクティスのバイスプレジデント兼アナリスト、エリック・シュミット氏は、セルフサービス型広告プラットフォームが提示するAIの提案を、マーケターはより批判的に評価する必要があると指摘する。

問題は、広告プラットフォームに組み込まれたAIが、必ずしも広告主の利益を最優先に設計されているわけではないことだ。
シュミット氏は、広告プラットフォームに過度の自律性を与えることに慎重であるべきだと説明する。子どもにクレジットカードを渡して買い物を任せ、「賢く買い物をしてきなさい」とだけ指示するようなことは通常しない。それと同じように、AIを搭載した広告プラットフォームに、人間の監督なしで無制限にメディア予算へアクセスさせるべきではないという考え方である。

広告主とプラットフォーム、AIが向いているのはどちらなのか

ここで重要なのは、AIが「誰のために」設計されているのかという視点である。
シュミット氏によれば、広告プラットフォームのAIは、広告を購入するマーケターよりも、むしろプラットフォーム事業者側の目的に沿うよう開発されている。プラットフォームは広告主にとってのコストを抑えたい一方で、自らは広告収入を最大化したい。両者の利害が衝突したとき、AIがどちらに有利な判断をするのかを考えれば、その構造は明確である。

実際、広告管理画面に表示されるAIによる推奨事項には、追加予算を投入することを促す提案が少なくない。これは偶然というより、広告プラットフォームが売上や利益の目標を達成するために設計されたアルゴリズムの性質から生じるものと考えられる。
したがって、マーケターがAIの提案をそのまま「最適解」と受け取るのは危険である。AIが提示した選択肢が広告主の事業目標に本当に適合しているのか、それともプラットフォーム側の収益拡大に寄った提案なのかを見極める必要がある。

さらに、AIをめぐる問題を複雑にしているのが、複数の広告プラットフォームが十分に連携していないことである。
Google、Meta、Amazonなど、それぞれのプラットフォームが独自のデータやアルゴリズムを使って広告最適化を行う一方、プラットフォームをまたいだ測定やデータの相互運用には依然として課題が残る。つまり、AIによって個々のプラットフォーム内での最適化が進んでも、マーケターが本当に知りたい「複数のメディアを横断したとき、どの投資が事業成果につながったのか」という問いには、必ずしも簡単に答えられるわけではない。

だからこそ、AIツールをどこまで利用するかを判断する前に、自社が何を達成したいのかを明確にしておくことが重要になる。
「自分たちが実現しようとしている目標に対して、メディア全体はどのような役割を担うのか」。まずこの問いを設定し、そのうえで各プラットフォームやAIツールの価値を評価する必要がある。
AIが提供する華やかな機能や自動化の便利さに目を奪われるのではなく、その裏側にある仕組みや評価ロジックまで確認することが求められる。

AIに任せる領域を見極め、人間による監督を残す

AIを利用する際には、従来のメディアプランニングと同様に、広告のリーチや利用状況といった基本的な指標を確認するだけでは不十分である。
AIを搭載した広告プラットフォームが、投入した広告費と最終的に得たい成果との関係をどこまで明確に示せるのかも評価しなければならない。そのためには、無数の変数を一度に追いかけるのではなく、意思決定にとって重要な要素を絞り込むことも必要になる。

シュミット氏は、AIを活用するうえでの課題の一つとして、扱う変数の数を適切に制限することを挙げている。
特に注視すべきなのが、広告市場で大きな影響力を持つプラットフォームである。Google、Meta、Amazonの3社だけで、米国の有料メディア支出の半分以上を占めている。また、中国を除く世界全体の広告費においても、これらのプラットフォームのシェアは60%に近づいているとされる。マーケターにとって、こうした巨大プラットフォームの動向を継続的に監視することは不可欠である。

同時に、AIによるメディアバイイングの評価をマーケティング部門だけで完結させないことも重要だ。財務部門の幹部など、異なる立場の社内ステークホルダーを巻き込み、AIへの投資がもたらすリスクとリターンについて共通認識を形成することが有効である。AIを導入することそのものを目的にするのではなく、自社の戦略と各部門の考えをできる限り一致させたうえで、どこまで自動化を受け入れるのかを決める必要がある。

もちろん、こうした懸念があるからといって、AIを避けるべきだという話ではない。マーケターがより複雑な課題に取り組み、より精度の高いパーソナライズ広告を生み出すうえで、AIは極めて有力なツールである。
シュミット氏も、ソフトウェアに搭載されたAI機能は積極的に活用すべきだとしながらも、「すべての作業を自動化できる」「もうメディアプランナーは必要ない」といった過剰な期待には警鐘を鳴らす。すべてのプラットフォームを横断して、そのまま実行できる完全自動のメディアプランが実現したと考えるのは、まだ現実的ではないという見方である。

AIを使い始めるために、高度な技術知識を持っている必要もない。広告管理画面の操作や、そこで何が起きているのかを理解するために、必ずしも技術者としての経験が求められるわけではない。これまで回帰分析を行った経験がなかったり、キャンペーンブリーフを作成したことがなかったりする社員でも、AIによってこうしたツールを扱えるようになったことは大きなメリットである。

ただし、問題が発生したときには、それまでの「簡単に使える」という利点が弱点に転じる可能性がある。
そのため、AIを導入する段階では、経験のある担当者による監督と検証が欠かせない。とりわけAIがまだ発展途上にある現在は、広告プラットフォーム自身が提供するデータだけに依存せず、独立した測定プロバイダーなど外部の視点も活用しながら、キャンペーンの実績や成果を評価することが重要である。
AIを使わないという選択肢は、もはや現実的ではない。重要なのは、AIに何を任せ、何を人間が判断し続けるのかを明確にすることである。

プラットフォームが自ら提示する「最適化」の結果を鵜呑みにするのではなく、広告主自身の視点から成果を測定し、複数のデータを突き合わせながら判断する。その意味で、AI時代のマーケターに求められるのは、AIを使いこなす技術だけではなく、AIの判断を疑い、検証し、必要に応じて介入する能力でもある。(出典:MARKETING DIVE、画像:Unsplash)

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