高級品が「安くなる」時代の到来―ラグジュアリーブランドと価格・価値の再調整

高級品業界の景色は、いま確実に変わりつつある。象徴的なのが、割引販売の急増である。フィナンシャル・タイムズがベイン・アンド・カンパニーおよびイタリアの業界団体アルタガンマのデータを引用して報じたところによれば、昨年は高級品の3分の1以上がディスカウント価格で販売され、その割引率は平均で35〜40%に達していた。

この動きを単なる消費者の節約志向として捉えるのは的外れである。ベイン・アンド・カンパニーのラグジュアリー部門グローバル責任者であるクラウディア・ダルピジオは、「消費者が定価購入を控えるのは倹約ではなく、価格と提供価値のバランスが崩れていることへの明確なメッセージだ」と指摘する。
パンデミック後、多くのラグジュアリーブランドは原材料費や人件費の上昇を背景に価格を引き上げてきたが、その上昇は一部の顧客にとって心理的・機能的な許容範囲を超え始めているのである。

スポーツへの接近が示す、新たな顧客獲得戦略

価格戦略の揺らぎと並行して、ラグジュアリーブランドのマーケティング行動にも変化が見られる。その一つが、スポーツ分野への関与の拡大だ。従来、ポロやヨットといったエリート性の高い競技と結びついてきたラグジュアリーブランドは、近年、サッカーやバスケットボールといった、より大衆的かつグローバルなスポーツへと接近している。

データグループLuxurynsightによれば、スポーツスポンサーシップやコラボレーション契約の数は、2019年から2024年の間に実に505%増加した。LuxurynsightのCEOであるジョナサン・シボニは、「今日のスポーツはもはや単なる競技ではなく、世界規模のエンターテインメントである。ブランドはその巨大な注目の一部を獲得しようとしている」と述べている。

この動きは、価格に敏感でない超富裕層だけでなく、より広い層との接点を模索するブランドの意図を映し出している。しかし同時に、それはブランドイメージの希薄化というリスクも孕む。サッカーがビールやギャンブルといった大衆消費ブランドと同一空間で語られる文脈において、高級ブランドがどのような立ち位置を保てるのかは、慎重な設計を要する問題である。

「値下げ」か「再定義」か─問われるラグジュアリーの本質

現在の高級品業界が直面している本質的な課題は、価格そのものではない。むしろ、消費者の支出が「モノ」から「体験」へと移行する中で、ラグジュアリーの価値をどこに見出すのかという問いである。割引販売の常態化は、価格上昇戦略が限界に近づいていることを示唆する一方で、安易な価格引き下げは利益率とブランド価値の双方を損なう危険を伴う。

さらにイタリアでは、高級品サプライチェーンにおける低賃金や劣悪な労働環境を巡る検察当局の調査が進んでおり、「高価格=倫理的・高品質」という前提そのものが揺さぶられている。ラグジュアリーの正当性は、価格だけでは支えきれなくなっているのだ。

こうした状況下で重要なのは、ブランドを単なる富の象徴ではなく、ハイパフォーマンスと職人技、そして物語性と結びつけ直すことである。ラグジュアリーコンサルティング会社トリニティ・アジアのCEO、アレクシス・ボノムは、「適切に行えば、ラグジュアリーを希薄化させることなく、現代的な文脈で再構築することが可能だ」と述べている。

高級品が「安くなる」現象は、ラグジュアリーの終焉を意味するものではない。それはむしろ、価格依存から脱却し、価値の定義そのものを再設計する段階に入ったことを示すシグナルである。今、問われているのは、いくらで売るかではなく、なぜその価格で選ばれる存在であり続けられるのかという、ブランドの根幹に関わる問いなのである。(出典:Financial Times, WARC

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