ダヴ、インドで「褒め方」を問い直す─外見中心の称賛文化を超えるブランドメッセージ

ダヴはインドにおいて、新たなブランドキャンペーン「#褒め方を変えよう(#ChangeTheCompliment)」を展開している。この取り組みは、女の子に向けられる日常的な称賛のあり方を見直し、外見ではなく、性格や能力、努力や達成といった内面的価値に光を当てることを目的としている。

キャンペーン映像では、日常の何気ない会話の中で使われる言葉が、少女たちの自己認識にどのような影響を与えるかが描かれている。「かわいい」「きれい」といった言葉が善意から発せられている一方で、それが繰り返されることで、少女たちに「見た目こそが自分の価値である」というメッセージを無意識のうちに刷り込んでしまう危険性を示唆している。

ダヴは、称賛が外見に偏ることによって、少女たちが自分自身の能力や可能性よりも容姿を優先して評価するようになる点を問題視する。そこで同ブランドは、「ありのままの姿」や「できること」を認め、努力や強みを言葉にして伝えることが、より健全な自信形成につながると訴えている。

インド社会における切実な背景

このメッセージがインドで強調される背景には、同国特有の社会的状況がある。ダヴが2024年に実施した美容実態調査によると、インドの女性は理想的な外見を手に入れるためなら「人生の1年分を犠牲にしてもよい」と考える割合が、世界的に見ても高い水準にあることが明らかになった。

さらに調査では、インドの少女の61%が「外見で判断されている」と感じており、その認識が学校や家庭、友人関係における発言意欲や積極性の低下につながる可能性が示されている。外見に基づく評価は単なる感情の問題にとどまらず、学習や社会参加といった行動面にも影響を及ぼしているのである。

ダヴは、こうした環境下では、日常的に交わされる一言一言が、自己イメージや自信、さらには幸福感にまで波及すると指摘する。同社の調査結果は、外見へのプレッシャーを和らげ、見た目を超えた自己価値を育むことが、より高い自信や主体性、社会的関与を促すことを示している。

「小さな言葉」が未来を変えるという提案

ダヴがこのキャンペーンで呼びかけているのは、劇的な制度改革ではない。むしろ、「美しい」だけでなく「大胆だ」「よく頑張った」「賢い」といった言葉を添えるという、日常の小さな変化である。同ブランドは、現代の少女たちが学業で成果を上げ、スポーツでメダルを獲得し、創造的な活動に取り組んでいるにもかかわらず、それを言葉として十分に評価されていない現状を問題提起する。

ヒンドゥスタン・ユニリーバ・リミテッドのパーソナルケア部門エグゼクティブディレクターは、低い自尊心が想像以上に早い段階から形成されることを指摘し、インドの少女たちも例外ではないと述べている。見た目を気にして行動が消極的になる現象は、表面的な問題ではなく、成長過程に直接的な影響を及ぼす重要な課題だという認識である。
「#褒め方を変えよう」は、保護者や養育者、教育者に対し、少女たちにどのようなメッセージを伝えているのかを問い直す機会を提供する。外見だけでなく、強みや能力、努力を言葉にして認めることが、持続的な自信を育み、より多くの可能性を開くという考え方が、このキャンペーンの核にある。

ダヴの使命は明確である。すべての少女が、自分の価値は見た目に限定されるものではなく、より深く、多面的なものであると理解しながら成長できる社会を後押しすること。そのために、まず変えるべきは、私たちが日常で使っている「褒め言葉」なのだ、という静かながらも強いメッセージが、このキャンペーンには込められている。(出典:branding in asia、画像:ダヴ)

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