四年ぶりのリアル開催のベルリンTOA23に参加。今年は会場も変わって雰囲気も様変わりしていたが、相変わらずのカバレッジの広さで、量子コンピュータから130億年前の宇宙、シリア難民にデジタルヒューマンから気候テックまで、世界の最先端の研究・事業の取り組みをする人たちのセッションが刺激的。他のテックイベントにはない、学際的・哲学的でTOAらしさに溢れて素晴らしい。
備忘録的にいくつか初日の印象に残ったものを。この日の注目トピックとしては集権的AIと分散的・民主的クリプトの対極の未来、人間性を拡張するヘルステックに気候(クライメイト)テック革命の最前線、ポスト資本主義の価値のインターネットとコミュニティプラットフォームの再構築などなど。
ハリウッド映画など最先端の現場でデジタルヒューマンを開発するMimic Productionは、チャットボットAIの未来を示す産業向けデジタルヒューマンサービスを開始。実物を見るとエンパシーが高くChat GPIの進化とも相まってカスタマーサービスや、銀行のATM・窓口などが置き換わる未来が容易にイメージできる。
2カ月前、EUは暗号資産を規制する世界初の包括的な規則を承認。暗号通貨詐欺が相次ぐ中、暗号資産サービスのプロバイダーは公正でオープン、プライバシー技術適用など法的規制を満たす前提の登録制となり、今後GDPRのように標準化のお手本となっていくことが想定される(今回DeFiやNFTは含まれない)。自律分散化の終焉?になるのか、こちらも本気の一手だ。
SPRIN-D(ドイツ連邦破壊的イノベーション省)は、投資家が嫌うようなハイリスク・長期ハイインパクトなスタートアップを政府が主体となって積極支援、海藻養殖による脱炭素型化学素材生成や気候土壌を改善する人口雨、ウイルスを捕獲・カプセル化し非感染性にするキャプシテック、未来のカーボンリサイクルセメント技術など世界を変えるプロジェクトに投資。カッコよくてぶっ飛んでいる。
トゥモローバイオのマッドサイエンティスト、エミール・ケンジオーラ博士は、月25ユーロからの人間(脳から人体全てまで)の長期低温保存技術を開発、未確立の疾病の未来での治療待ちなど、すでに300人以上のメンバーが参加。ワンダーフィールのパトリシア・ライアンによる細胞老化科学、NAD前駆体による長寿の進化的知見も。
ピーターティールが投資するメンタルヘルスのスタートアップCOMPASSは、シロシビン療法(マジックマッシュルーム)による治療抵抗性のうつ病患者、不安症、依存症などへの安全な治療効果を研究しており、サイケデリックなメンタルヘルスケアにおける患者体験の変革を目指す。
My Placeの創業者ザック・ベルは、グローバル資本主義モデルに収斂(個人情報のマーケットプレイス化)してしまったFacebookやUber・Airbnbなどに対し、ポストGAFA時代の真のシェアリングプラットフォームモデルのあり方を提案する。取引フィーベースのビジネスモデルではない信用ベースのアプローチが非常に興味深かった。
またWeb3の技術から”価値のインターネット”の実現を目指すZKSync(ZKはゼロ知識証明)のアレックス・グルチョウスキーは、クリプト/ブロックチェーンは民主的、分散化技術だがAIは集権化を加速する技術で、同時代に2つの対極の力がせめぎ合っている力学を語る。この辺り、次の世界のあり様を想起させて興味深い。
Googleの量子応用哲学者マリッサ・ジュスティーナによる量子コンピュータの”わかりやすい”解説とqビット原理、MITの天文学教授アンナ・フレーベルによる元素進化による天の川銀河の起源解明と120億年の宇宙の最新知見、また研究者向けSTEMリーダーシップ・プログラグラムの立ち上げ話なども興味深い。こういった学際的なスピーカーの話を聞けるのもTOAならでは。
初日から多方面で世界を探求・変革する人達の未知の知見の交差が刺激的だが、世界はどんどん新しいビジョンの実現に向かっていることを肌で感じたTOA23の初日だった。