
フォード、2012年以来のグローバル刷新 「Ready, Set, Ford」でプロダクトファーストからヒューマンファーストへ
フォード・モーターは2012年の「Go Further」以来となる新たなグローバル・ブランディングを発表した。新キャンペーン「Ready, Set, Ford」は、単に車両を訴求するのではなく、企業としてコミュニティや顧客を第一に考える姿勢を前面に出し、フォードが人々のライフスタイルにどう寄り添うかを示すことを目的とする。
キャンペーンの始動とクリエイティブの意図
米国では9月10日より60秒のテレビスポット「Anthem」で展開を開始した。映像は、疾走する人、サーキットを駆けるマスタングのレーシングカー、F-150によるオフロードでの一幕、ブロンコでの走行と崖からのダイブなど、ダイナミックなカットを連ねる。最後に流れる言葉は、「できると思うか、できないと思うか。いずれにせよ、あなたは正しい」というメッセージで、創業者ヘンリー・フォードの言葉を想起させる。その後「Ready, Set, Ford」の文字が表示され、挑戦へと背中を押す“合図”として締めくくる。
フォードのグローバルCMOであるリサ・マテラッツォ氏は、同キャンペーンを「広告以上のもの」と位置づける。従来の“製品第一”から“人間第一”へ軸足を移し、フォードが人々の毎日にどのように役立つかを、断定ではなく対話的に語りかける狙いであるという。「消費者の側を向き、フォードが生活の中で果たし得る役割をより直接的に伝えたい」という。
グローバル展開のロードマップ
「Ready, Set, Ford」はまず米国で始動し、第4四半期までに主要市場へ拡大、2026年第1四半期までに全世界での展開を完了させる計画である。9月のアンセム発表に続き、10月以降は製品・サービス・体験の具体訴求へとフェーズを進める。
- G.O.A.T.モード(Goes Over Any Type of Terrain):ブロンコ/ブロンコ・スポーツに搭載。地形に応じてドライバーがダイヤルでモード選択し、パワートレイン・ハンドリング・ステアリングを最適化する機能。SUVの走破性を象徴する訴求軸として活用。
- Pro Power Onboard:現場やキャンプで電源供給を可能にする車載電源機能。野外の作業・レジャーを支える“実用の証し”として取り上げる。
マテラッツォ氏は、これらの機能訴求がフォードの中核ミッションにおける「実行の証左」であり、消費者が追求するライフスタイルをどのように支援するかを示すものだと述べる。
本キャンペーンは、フォードにとって今年最大のマーケティング施策である。フォードは年初に「From America, For America」キャンペーンで従業員価格の訴求を行い成果を上げたが、今はより包括的なブランド刷新の段階にある。背景には、約20億ドルの正味関税コスト、9月末の連邦税額控除終了に伴うEV需要の不透明さ、そして全体的な経済不安がある。マテラッツォ氏は「混乱と不確実性が続く今だからこそ、フォードが何を代表するかを明確に示すことが重要」とし、同社の“楽観主義とレジリエンス”をブランドコミュニケーションに織り込む意義を強調する。
ブランド戦略の全社的実装
フォードはテレビやデジタル広告にとどまらず、企業活動全般にブランド戦略を組み込む。フォード・フィランソロピーと連携し、価値観の実装を図るのもその一環である。6月に始動した「Ford Building Together」は、危機対応において企業リーダー・従業員・ディーラー・非営利団体の一体性を高めるプログラムで、共通ビジョンの下で迅速かつ効果的に動くことを目的とする。
ブランドメッセージの最終目的は、フォードが提供する製品・サービス・体験の“幅と深さ”を理解してもらうことにある。
- 例として、ブロンコの販売だけではなく、オフロード走行をプロの指導で学べる「ブロンコ・オフ・ロアデオ」や、マスタング向けのオンロード/サーキットプログラムなど、コミュニティ・体験型の価値を提供している。
- また、ディーラー経由の「ピックアップ&デリバリー」など、整備を“望むときに望む場所で”受けられるサービスも展開し、所有体験そのものを拡張している。
マテラッツォ氏は「既存顧客も、まだフォードを深く知らない人も、このメッセージをきっかけに好奇心を抱き、もう一歩踏み込んでフォードを知ってほしい」と語る。新ブランディングは、クルマそのものに加え、フォードが提供する体験価値全体を届けるための“招待状”である。(出典:Ford Motors, AdAge, Detroit Free Press他)