
広告が見えない時代へ─10億人超が使う「ダークトラフィック」と広告ブロッカーの現実
近年、広告を非表示にするだけでなく、トラッキングやパブリッシャーの収益化機構までも遮断する、高度な広告ブロック技術の利用者が急増している。調査によれば、2025年には世界中で10億人以上がこうした「厳格型」広告ブロッカーを利用すると見込まれており、これはデジタル広告の仕組みに深刻な影響を与える。
なぜ広告ブロックが問題なのか
広告ブロックは長年にわたり、広告業界の喫緊の課題とされてきた。見られない広告は当然ながら成果を上げない。だが、ここで注目すべきは、広告ブロックがもたらす2つの深刻な影響である。
まず、広告主にとってのインパクトである。広告ブロックの普及により、より確実に広告を届けられる“ウォールド・ガーデン”(巨大ITプラットフォーム)への投資が集中する傾向が加速し、オープンで多様性のあるウェブの存続が脅かされている。
次に、オンライン広告の根幹を支えてきたアドテク(広告技術)が、結果的にユーザーを広告ブロックへと駆り立てているという点である。一部のユーザーは自らの意思でブロックツールを導入しているが、多くはセキュリティ対策やネットワーク設定の結果、意図せずして広告を遮断している。
このような状況は、広告に依存しない新たな収益モデル──ペイウォール、登録制、サブスクリプションモデルなど──にも波及しており、メディアの持続的経営にとって大きな懸念材料となっている。
「ダークトラフィック」とは何か
アドテク企業Ad-Shieldのレポートによれば、現在ウェブトラフィック全体の約18%に相当する9億7600万人が、いわゆる「ダークトラフィック」経由でインターネットを利用しているという。これは、広告ブロックだけでなく、トラッカー、広告許諾ポップアップ、クッキー同意画面、登録要求などを一括して遮断する“不可視領域”である。
かつてはデスクトップ上の問題とされていたこの「見えないトラフィック」のうち、実に53%がモバイル環境からのアクセスとなっており、スマートフォンが主要端末となった現在、その影響は無視できない。
Ad-Shieldの独自分析では、パブリッシャーネットワーク全体から収集した50億件以上のページビューと、2616人への調査結果をもとに、この問題の全容が明らかにされている。さらに、2019年には世界で5億9000万人だった厳格な広告ブロッカー利用者が、2025年には11億人へと達すると見込まれており、成長は加速度的である。
広告が嫌われる理由と背景
広告が遮断される理由は一様ではない。プリロール(動画視聴前に流れる広告)は、広告ブロックユーザーの51%が「最も迷惑」と感じている広告フォーマットである。だが、実際に広告ブロックを“選んだ”ユーザーは全体の43%に過ぎず、57%は第三者の影響(雇用元のネットワーク設定、ブラウザやVPNの初期設定、セキュリティソフトなど)によって、無意識のうちに広告が排除されていることがわかっている。
また、皮肉な事実として、厳格な広告ブロッカーのユーザーのうち34%が、実は「広告経由でブロッカーの存在を知った」と答えており、広告自体が自らの存在意義を打ち消しているという構図も存在する。
パブリッシャーと広告主が直面する課題
このように広告が届かない、あるいは表示すらされない「不可視領域」の拡大は、パブリッシャーや広告主にとって深刻な問題である。単なるブラウザ拡張機能として始まった広告ブロックは、今やネットワーク全体に影響する構造的課題へと変貌している。
広告ブロックの拡大は、収益の減少という単純な問題にとどまらない。メディアの信頼性、透明性、そしてオープンな情報流通をどう守るかという本質的な問いを私たちに突きつけている。広告が拒絶されているという事実は、広告業界だけでなく、情報と収益を両立させるインターネット全体の在り方を再考するきっかけともなる。この構造的な変化の波を前に、広告業界とメディアは、今こそその信頼の再構築と、持続可能なモデルの再設計が求められている。(出典・画像ソース:Ad-Shield)