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関税の急変動にブランドはどう対応すべきか

世界中で激化する不安定な貿易情勢を背景に、企業と消費者はさまざまな形で対応を迫られている。トランプ前大統領による一連の新関税政策が実施されたことで、アメリカ経済は混乱に見舞われ、株式市場からは一夜にして2兆ドル以上が消失。特にマーケティングや広報チームにとっては、こうした急激な政策変更がブランド戦略に直結する重大な問題となっている。

Arete Researchのアナリスト、リチャード・クレイマー氏は、「現在、アメリカ経済は混沌としており、消費者が目にするすべてのものが影響を受けている」と『ニューヨーク・タイムズ』に語っている。

懸念が広がる業界の声

関税の影響に対し、多くの業界やブランドが懸念を表明している。たとえば、トランプ政権がフランス産ワインに対して20%の関税を課したことで、ブルゴーニュワイン委員会は「米国市場で最大1億ユーロの損失が出る可能性がある」と述べた。フランスのワインメーカー、ヴァンサン・ダンプト氏は「この関税は悪いニュースだが、200%の関税という最悪のシナリオを回避できたのは不幸中の幸いだ」と語っている。

自動車やテクノロジー産業も打撃を受けており、アップル、マイクロソフト、アルファベット(Googleの親会社)、メタ、アマゾン、エヌビディアなどの大手テック企業は、合計で1兆ドル近い時価総額を失ったと報じられている。

沈黙と対応:企業の温度差

ほとんどの企業がこの問題に対して慎重な姿勢を見せている一方で、フォードのように積極的に対応する企業も存在する。輸入車および自動車部品に対して新たに25%の関税が課される中、フォードは「From America, For America(アメリカから。アメリカのために)」という親米的なメッセージを前面に押し出すキャンペーンを展開し、米国製造の信頼性と価値をアピールしている。

フォードはこのキャンペーンの一環として、従業員価格と同等の価格で車両を提供するAプランを一般消費者にも適用しており、俳優ブライアン・クランストンがナレーションを務めるテレビ広告でも注目を集めている。

広報・マーケティングの戦略的役割

PRチームにとって、こうした状況では極めて戦略的な対応が求められる。過度な政治的表現や過激な主張を避けつつ、消費者との信頼関係を維持し、ブランドの価値を明確に伝える必要がある。フォードのアメリカ販売・ディーラー関係ディレクターであるロブ・カッフル氏は、「今、多くのアメリカ人が経済の変化に不安を抱えている中、私たちは信頼できる製品とサービスでその不安を支えたい」と語っている。

このようなアプローチは、製造の多くを国内に置き、価格調整の柔軟性を持つ企業には有効だが、他の業界にとっては簡単な選択肢ではない。特にテクノロジー企業は、ホワイトハウスやEU、中国といった複数の政治的利害関係者からの圧力に直面しており、自由なコミュニケーションが難しい状況にある。

長期戦を見据えた備え

アナリストのクレイマー氏は「これは短期的な問題ではなく、長期戦になる」と見ている。アップルはすでに2026年までの製造計画を策定しており、早くても2027年までは関税の影響を回避できないと述べている。「サプライチェーンを四半期単位で再構築することは不可能だ」と彼は強調する。

今後、ブランドや広報チームは、トランプ関税のような政策変更がもたらす経済的・社会的影響に敏感に対応しなければならない。沈黙を守るべきか、メッセージを発信するべきかの判断は、企業の業種、構造、価値観に依存する。だが、どの企業にとっても、消費者との信頼関係を失わず、企業の持続可能なビジョンを伝え続けることが、最も重要なコミュニケーション課題となるだろう。(出典:PR Daily他)

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