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ビーフィーター0.0、「Virtual Insanity」の世界を再構築。ジャミロクワイと描く新しいロンドン・スピリット

ペルノ・リカール傘下のジンブランド「ビーフィーター」が、アルコールフリーの「ビーフィーター 0.0」の新キャンペーンを展開した。今回の広告でブランドが着目したのは、ジャミロクワイの代表曲「Virtual Insanity」と、その象徴的なミュージックビデオである。制作を手掛けたのはロンドンの広告代理店ラッキー・ジェネラルズ。ジャミロクワイ本人を起用し、1990年代を代表する映像作品を新たなストーリーへと発展させた。

「Virtual Insanity」は、楽曲そのものだけでなく、ミュージックビデオの革新的な映像表現によって世界的に知られる作品である。監督を務めたのは、後に長編映画監督として活躍し、アカデミー賞にもノミネートされたジョナサン・グレイザーだ。
映像では、青いトラックスーツと大きな帽子を身につけたジャミロクワイが、インダストリアルな雰囲気の室内で踊る。床が動き、壁が迫ってくるように見える不思議な演出は、当時大きな話題を呼んだ。新しいテクノロジーがもたらす歪みや危うさをテーマにした楽曲とも相まって、このMVは現在も90年代を象徴する映像作品の一つとして記憶されている。

テレビ番組やポップカルチャーのパロディなどを通じて繰り返し引用されてきたこの映像に、ビーフィーターは30年の時を経て新しい意味を与えた。
今回の約2分間のキャンペーン映像で、ジャミロクワイはオリジナルMVを思わせるセットに再び登場する。ただし、今回は手を伸ばして引き寄せるのは、ビーフィーター 0.0を使ったカクテルである。

そこからジャミロクワイは、帽子で埋め尽くされた部屋、トレッドミルが並ぶジム、陶芸の工房、高級レストラン、木目を生かしたサウナ、落ち着いた雰囲気のナイトクラブなど、次々と現れる異なる空間を移動していく。最後には第四の壁を破るようにセットの裏側を見せ、冒頭にも登場した電動リクライニングチェアに乗ってその場を後にする。
一つの閉ざされた空間を舞台にしていたオリジナルMVに対し、今回の作品では複数の部屋をつなげることで、「0.0だからこそ、もっと多くのことを楽しめる」というブランドのメッセージを視覚化した。

ラッキー・ジェネラルズの最高戦略責任者ダミアン・ル・カストレックは、アルコールフリー飲料の広告では、ともすれば「我慢すること」や「何かを諦めること」が強調されがちだと指摘する。そこで今回は、「0.0なら、むしろできることが増える」という前向きな価値を、憧れを感じさせるクリエイティブとして表現することを狙った。

ビーフィーター 0.0ならジンらしい味わいを楽しみながらアルコールを摂取しないという選択ができる。平日にも外出し、深夜までロンドンの街を楽しみながら、翌日への負担を抑える。そうした一見矛盾するライフスタイルを、キャンペーンではユーモアと大胆な映像表現によって描いている。
この考え方は、慌ただしいロンドンという都市にも重なる。多くのロンドン市民が、仕事や日常生活と社交を両立させながら、飲酒量をコントロールすることを意識している。ビーフィーターは、こうした現代の「節度ある楽しみ方」を新たなロンドン・スピリットとして捉えたのである。

ジャミロクワイを選んだ理由と「ロンドンらしさ」

今回のキャンペーンでジャミロクワイを起用した背景には、ビーフィーターそのものが持つブランドの出自がある。ビーフィーターは、現在もロンドン市内で製造されているロンドン・ドライ・ジンであり、その歴史と都市との結びつきはブランドの重要な資産である。そのためマーケティングチームは、英国人であり、ロンドンとの強い関係を持ち、幅広い世代に知られ、なおかつ大物スターでありながら現実的な起用が可能な人物を探した。
そこで浮上したのがジャミロクワイだった。

その顔だけでなく、音楽、そしてトレードマークともいえる帽子まで含めて、「Virtual Insanity」のイメージは世代を超えて認識されている。ラッキー・ジェネラルズによれば、18~34歳では約60%という高い認知度があったという。

さらに重要だったのが、ジャミロクワイ自身のライフスタイルの変化である。かつて派手なパーティーライフで知られたジャミロクワイは、その後、より節度を重視した生活へと移行している。その変化は、アルコールフリーという選択肢を提案するビーフィーター 0.0の考え方とも重なった。
つまり今回のキャンペーンでは、単に有名人を広告に起用したのではない。「Virtual Insanity」という文化的資産、ジャミロクワイ自身の現在のライフスタイル、そしてロンドンという都市のイメージを一つに結びつけたのである。

一方、ペルノ・リカールにとって今回の取り組みは、ブランドの話題作りだけを意味するものではない。同社は2026会計年度にオーガニック純売上高が3.9%減少し、米国と中国の市場低迷が業績の重荷となった。経営陣は決算説明会で、ビーフィーター 0.0を、消費者を起点としたイノベーションを加速させる取り組みの一例として挙げている。

オリジナルを再現するのではなく、「次の章」をつくる

制作においてラッキー・ジェネラルズが最も慎重になったのは、あまりにも有名なオリジナルMVをどう扱うかだった。
クリエイティブ・チーフ・オフィサーのシェリー・スモーラーによれば、チームは単純にロケーションを変えたり、オリジナルを現代的に作り直したりすることを目指していたわけではない。30年前の映像が持つ価値を尊重しながら、その世界に新しい物語を付け加えることが狙いだった。

そこで鍵になったのが、ジャミロクワイの帽子である。帽子へのこだわりを起点に、ジャミロクワイが興味を持つもの、現代のオーディエンスが魅力を感じるもの、そしてロンドンの人々が日常的に楽しむものを組み合わせ、映像に登場するさまざまな部屋が設計された。
制作パートナーには、マグナ・スタジオの監督デュオ、ジュリアン・マルトレルとクエンティン・ガラベディアンが選ばれた。二人はこれまでコカ・コーラ、スターバックス、プーマなどの広告を手掛けてきた。

今回、チームはCGIやAIによる映像生成を使わず、実写で撮影することを決めた。理由は、ビーフィーターがジンづくりで重視するクラフトマンシップと、ジャミロクワイが音楽に注いできた職人的な姿勢の双方に通じるものを映像にも持たせるためである。
そもそも「Virtual Insanity」が30年にわたって人々を驚かせてきた理由の一つは、「これは一体どうやって撮影したのか」という人間の創意工夫への驚きにある。そのため、最新技術を使って効率的に映像を作るのではなく、あえて人の手による制作方法を選択した。

しかも今回は、オリジナルMVとは異なる仕組みが採用された。オリジナルでは可動する壁が重要な役割を果たしたのに対し、新作では主に動く床を使い、合計9種類のセットで撮影している。すべてのセットを一つのスタジオに収めるだけの長さを確保できなかったため、撮影は二つのパートに分けて実施。その後、編集によって継ぎ目が分からないようにつなぎ合わせ、一続きの空間として見せている。

この手作業による制作手法は、映像に独特の質感を与えただけでなく、細部にイースターエッグやブランドを連想させる小さな仕掛けを配置する余地も生んだ。
ただし、アナログな制作には予想外のトラブルもつきまとった。パーティーシーンの撮影では、セット内の重量が想定以上になり、リグが破損するアクシデントも発生したという。それでも制作チームは、そうした偶発的な出来事も含めて、実写ならではの価値だと捉えている。AIによって「Virtual Insanity」のような世界を再現することは技術的には可能だが、作品そのものが持つ「人間はどうやってこれを実現したのか」という驚きと矛盾してしまう。

ビーフィーター 0.0のキャンペーンは、過去の名作を単純に懐古的に再利用したものではない。30年前のポップカルチャー資産を起点に、ジャミロクワイの現在、ロンドンという都市の文化、アルコールフリーという新しい飲み方、そして人間のクラフトマンシップを組み合わせ、ブランドにとっての新しい物語へと発展させたのである。( 出典:MARKETING DIVE、画像:Beefeater)

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