ウェイトウォッチャーズはGLP-1時代にどう適応するのかー「減量プログラム」から「医療×体験」ブランドへ

ウェイトウォッチャーズは、GLP-1系減量薬の急速な普及を背景に、ブランドアイデンティティとデジタル体験の大規模な刷新に踏み切った。60年以上にわたり体重管理の代名詞であり続けてきた同社にとって、今回の刷新は単なるデザイン変更ではなく、ビジネスモデルそのものを再定義する試みである。

医療統合型ブランドへの再定義

新たに導入されたロゴは、2つの「W」を直線で分断する構成を採用し、体重管理における「進捗」を視覚的に表現する。従来からのブルーを基調とした色使いは維持しつつ、書体やビジュアルトーンを現代化することで、長い歴史と変革への意志の両立を図った。実際の会員を起用したモノクロ写真は、理想像ではなく現実の生活に根ざした変化を描き出す意図を明確にしている。

このブランド刷新の背景には、同社が直面してきた経営環境の急変がある。2024年5月に破産保護を申請したウェイトウォッチャーズは、再建戦略の中核として「急速に変化する体重管理環境」への対応を掲げてきた。オゼンピックやウェゴビー、ゼプバウンドといったGLP-1製剤の市場拡大は、従来型のポイント制減量モデルを揺るがす一方で、新たな成長機会ともなっている。同市場は2030年までに1500億ドル規模へ拡大すると予測されており、ウェイトウォッチャーズはこの潮流を周縁ではなく中核に据える決断を下した。

GLP-1を「製品」ではなく「体験」に組み込む戦略

今回の刷新で象徴的なのが、「WeightWatchers Med+」と呼ばれるGLP-1専用の医療プログラムである。これは単に薬を提供する仕組みではなく、個別化された栄養指導、服薬量の管理、副作用への対応、筋肉量維持のための助言などを統合したサブスクリプション型サービスとして設計されている。さらにAIボディスキャナー、新たな体重・健康スコア、筋力トレーニングや機能的運動に特化したプレミアムコンテンツなど、デジタル体験全体が再構築された。

最高体験責任者(CXO)は、この進化について「ブランドはロゴではなく、会員が日々接する体験そのものに宿る」と述べている。コーチ、コミュニティ、医療サポートを含めた一貫性のある体験を通じて、会員一人ひとりの現実的な生活と目標に寄り添うことが狙いだ。これは、GLP-1という強力だが画一的にもなり得る医療手段を、人間的で継続可能な体験へと翻訳する試みでもある。

ブランド運営体制にも変化が見られる。2024年秋にはMrs&Mrがグローバルブランドエージェンシーに就任し、長年のスポークスパーソンであったオプラの取締役退任や、オグルヴィとの関係解消を経て、新たなブランド語りの主導権が再構築された。過去には2018年の「WW」への改称でウェルネス領域への拡張を図ったが、今回はそれをさらに一歩進め、医療と生活支援を横断する存在へと舵を切っている。

実際、財務面では依然として厳しさが残る。2025年9月30日終了の第3四半期において総収益は前年同期比で減少したものの、臨床サブスクリプション収益は35%超の成長を記録した。この数字は、ウェイトウォッチャーズの未来が、従来の減量プログラムではなく、医療統合型の体験モデルにかかっていることを示唆している。

GLP-1ブームは、多くの既存ウェルネスブランドにとって脅威である一方、ウェイトウォッチャーズにとっては自らの存在意義を再定義する契機となった。今回のブランド刷新は、体重を「減らす」企業から、健康と変化のプロセス全体に伴走するブランドへと進化しようとする、同社の強い意思表示なのである。(出典:Weight Wacthers, Marketing Dive)

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