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ラジャ・ラジャマナーが遺したMastercard「プライスレス」の進化

Mastercardで12年間CMO(Chief Marketing & Communications Officer)を務めたラジャ・ラジャマナーが職務を離れ、シニア・フェローに就任する。

ラジャマナーの在任期は、ブランドをマーケティング主導・データ主導へと再設計した時代であり、『Quantum Marketing』の著者、ANA Global CMO Growth Council元議長、Mastercardのヘルスケア事業立ち上げなど多面的な実績で知られる。とりわけ、1997年に始まった「Priceless(プライスレス)」の約束を、体験・デザイン・目的(パーパス)へ拡張した功績が大きい。

プライスレスの拡張:キャッチフレーズから“体験プラットフォーム”へ

就任後、ラジャマナーは「プライスレス」を“思い出を描く広告表現”から“顧客のために特別な体験をキュレートする仕組み”へと転換した。タイムズスクエアの巨大看板上での特別ディナーのような象徴的企画から、米国・ブラジル・英国・香港を含む各地のユニークなレストランとの協業まで、食・文化・都市体験を立体的に展開。高級パティスリーのラデュレと組んだオリジナル・マカロンの開発など、味覚にまで領域を広げた。

また、長年続くグラミー賞スポンサーシップに加え、レディー・ガガとの取り組みでは、2025年の新曲「Abracadabra」のファン参加型ビデオ企画を用意するなど、音楽文脈での“参加体験”を強化した。ラジャマナーは、一貫して「体験はモノより記憶に残る」という普遍的価値に適応し続けたことが、プラットフォームの持続力を支えたと位置づける。

多感覚ブランディング:視覚・聴覚・触覚をつなぐ設計

2019年、Mastercardはロゴから社名表記を外し、二つの円のみで識別可能な記号性へシフト。デジタル時代にふさわしい簡潔さと可視性を追求した。同年、決済時に鳴る約1.3秒の音のシグネチャ(ソニック・ロゴ)を導入し、信頼感や想起性を高める接点を音で補強したと説明している。

2022年には“Mastercardのアルバム”を発表し、音の世界観を拡張。2024年には、オンライン決済や端末利用時にスマートフォンで感じ取れる固有の振動パターン(触覚ロゴ)も公開し、触覚までをブランド言語として体系化した。社内検証では、触覚ブランディングが顧客満足度の指標を大幅に押し上げたとし、マーケティング領域の新機軸として位置づけている。

プライスレスに“目的”を組み込む:アクセシビリティとインクルージョン

ブランドの約束を社会的価値へ拡張した点も重要である。2020年開始の「True Name」は、ノンバイナリー/トランスジェンダーの当事者を含む人々が公的氏名に縛られず、希望の名前をカードに表示できるようにする取り組みで、日常の決済体験に尊重と安心をもたらした。

また、ニューヨーク・プライド・マーチの長年のスポンサーを務めるなど、コミュニティ支援を継続。2023年には視覚障がい者がカード種別を指先で識別できる「タッチ・カード」を導入し、シンプルな切り欠きでユニバーサル・デザインを推進した。

リーダー交代と今後

ラジャマナーはLinkedInで退任を公表し、これまで共に歩んだ人々と築いた記憶への感謝を綴ったうえで、今後はシニア・フェローとしてブランドに寄り添い続けるとした。バトンを受け取るジル・クレイマーは、アクセンチュアでのCMCO経験を携え、データとクリエイティビティ、そして“体験・多感覚・目的”を統合するMastercardのマーケティングを次章へ進めることになる。

ラジャ・ラジャマナーの12年間は、「プライスレス」を合言葉から“体験の設計図”へ、多感覚のブランド言語へ、そして社会的包摂を伴う目的へと拡張した時間であった。ロゴの簡潔化から音・触覚の導入、コミュニティへの実装まで、ブランドの約束を多層に翻訳したことが、Mastercardを“記憶され、感じられ、選ばれる”存在へと押し上げたと言える。これらの資産を基盤に、次のリーダーシップのもとでどのような発展が描かれるかが注目点である。(出典・画像:MasterCard, AdWeek)

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