
ディオール、メキシコの文化的遺産を再解釈
クルーズ2024が向き合った「土地の物語」
フランスのメゾンであるディオールは、2024年クルーズコレクションにおいて、メキシコの歴史と工芸文化を前面に押し出した。舞台となったのはメキシコシティ。クリエイティブディレクターのマリア・グラツィア・キウリは、プエブラ州の職人たちと協働し、地域の声をコレクションの中心に据えた。
単なる“インスピレーション源”として文化を引用するのではなく、実際に現地の工房と制作を共にすることで、技術と背景を可視化する構成をとった点が特徴である。
プエブラの織りが宿す現代性
制作に参加した工房の一つが、ワウチナンゴの山中に拠点を置くヨルセントレ工房だ。共同創設者である織物職人ヒラン・クルスは、キャンペーンの主役としても登場し、自身の創作背景を語っている。
彼は、伝統的に女性の仕事とされてきた織物の世界に身を投じた。家族からの戸惑いを経ながらも技術を習得し、その後は地域の職人たちに雇用の場を生み出すことを決意したという。ディオールは彼を前面に起用することで、伝統工芸の継承だけでなく、ジェンダー規範への再考という現代的テーマも提示した。
コレクションでは、プエブラの織り技法や刺繍が随所に取り入れられている。チュールドレスは織物素材によって刷新され、スクエアスリーブのトップスには手仕事の刺繍が施された。祖父母や曾祖父母の装いから着想を得た意匠は、現代的なシルエットと融合し、時間を横断する美意識を形づくっている。
過去の批判を踏まえた構造転換
ディオールは2019年のクルーズコレクションでもメキシコから着想を得ていたが、その際は文化的盗用との批判を受けた。白人中心の視点や、当事者不在の語りが問題視されたのである。
今回のアプローチは明らかに異なる。メキシコの芸術家や工芸家を制作過程の中心に据え、キャンペーンでも彼ら自身の物語を語らせる構成を採用した。これは、単なる文化的モチーフの引用から、文化的主体との協働へと軸足を移したことを意味する。
フリーダ・カーロという象徴
コレクション全体には、メキシコのシュルレアリスム画家フリーダ・カーロへの参照が繰り返し現れる。彼女は女性芸術家として国際的評価を確立し、いまなお高級オークション市場で存在感を示す象徴的存在だ。
カーロは、芸術的独自性のみならず、ジェンダー観や身体性、社会規範への問いかけという側面でも再評価され続けている。その価値観は、Z世代やミレニアル世代が重視する多様性や自己表現とも親和性が高い。
ディオールが彼女の人生と作品を文脈に据えたことは、メキシコ文化を中心に置く姿勢を補強すると同時に、ブランドの思想的メッセージを強化する役割を果たした。
文化を「借りる」から「共につくる」へ
今回のクルーズ2024は、単なる観光的オマージュではなく、制作プロセスそのものを文化的対話の場へと転換した点に意義がある。工芸技術の紹介にとどまらず、職人の物語、ジェンダー規範への挑戦、歴史的女性芸術家への再評価といった複数のレイヤーが重ねられている。
グローバルラグジュアリーブランドにとって、地域文化との関係構築は常に緊張を孕むテーマである。ディオールは今回、過去の批判を踏まえながら、文化を「借用する」姿勢から「共創する」姿勢へと舵を切った。その成否は今後の評価に委ねられるが、少なくともアプローチの構造は明確に進化している。(出典・画像:Dior, Luxury Daily)
















