ゴディバのリブランディング:チョコレート界のアイコンが2026年に向けて自らを再創造する方法

100年ブランドは、なぜいま「再編集」を選んだのか

ゴディバは2026年の創業100周年を見据え、ブランドの全面刷新に踏み切った。今回のリブランディングは、ロゴやパッケージの変更にとどまらず、製品体系、グローバルキャンペーン、デジタル体験、コマース戦略までを含む広範な取り組みである。親会社プラディスは、この刷新をパッケージ、小売店舗、デジタル接点を横断するマルチチャネル施策として位置づけ、1年以上にわたり準備を進めてきたとしている。

この動きが示唆するのは、レガシーブランドが現代化を図る際の根本的な課題である。すなわち、長年にわたり築いてきた信頼を損なうことなく、いかにして現代の市場環境と文化的文脈に適応するかという点だ。2025年の消費環境において、購買者は製品の品質だけでなく、ブランドがどのような価値観を持ち、どのような体験を提供しているかまでを比較している。ゴディバのリブランディングは、その前提に立った戦略的判断といえる。

変えなかったブランド資産と、更新された表現体系

今回の刷新において、ゴディバは既存のブランド資産を明確に保持している。象徴的なレディ・ゴディバのモチーフは依然として中心的な存在であり、ゴールドを基調とした視覚表現や、贈答文化とクラフトマンシップを重視する姿勢も継承された。これは、認知を損なうリブランディングを避け、既存のブランドエクイティを強化する意図によるものだ。

一方で、これらの資産はより洗練された形で再編集されている。ロゴではレディ・ゴディバの象徴がより統合的に扱われ、パッケージデザインは棚上やデジタル上での視認性と一貫性を重視したシステムへと再構築された。これは、実店舗とEC、広告と商品ページといった複数の接点で同一のブランド体験を提供するための調整である。

製品体系においても同様の整理が行われている。ゴールドコレクションやトリュフコレクションといった中核商品は刷新されつつ維持され、同時に「マスターピース」ラインを通じて、より日常的な購入文脈への拡張が図られている。プレミアム性を維持しながら顧客層を広げるための、段階的なポートフォリオ設計が意図されている。

文化的関連性とコマースを結びつけるブランド戦略

ゴディバのリブランディングは、文化的関連性と商業的成果を切り離さずに設計されている点に特徴がある。グローバルキャンペーン「レディ・ゴディバの帰還:現代の傑作誕生」では、象徴的存在であるレディ・ゴディバを現代的な物語として再提示し、テレビ、屋外広告、デジタル、ソーシャル、インフルエンサー施策を横断して展開している。これは単なる認知拡大ではなく、ブランドの象徴が現代においても有効であることを市場に示す役割を担っている。

同時に、デジタルコマースとユーザー体験の強化も進められている。ブランド刷新によって高まる関心を実際の購買につなげるためには、商品ページやギフト導線、配送情報などが一貫した体験として機能することが不可欠である。ゴディバは、こうした運用面を含めて刷新を設計することで、ブランド価値を一過性の話題で終わらせないことを狙っている。

創業100周年という節目は、単なる記念行事ではなく、組織全体を動かす戦略的期限として機能している。ゴディバの事例は、レガシーブランドが伝統を守りながら変化する際、ブランドを「固定された表象」ではなく、「更新可能なシステム」として再構築する必要があることを示している。その意味で、このリブランディングはチョコレートブランドの枠を超え、成熟市場におけるブランド戦略の一つの実例といえるだろう。(出典・画像:Godiva, Brand Vision Insight)

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