そう、アイスランドは実在する。― SNS時代の“陰謀論”に挑む、アイスランド航空の新キャンペーン

「アイスランドは本物なのか?」という奇妙な疑念

2025年、SNS上では「アイスランドの絶景はあまりに美しすぎてAI生成に違いない」という冗談半分の陰謀論が拡散し続けている。火山、氷河、間欠泉、パフィン、そしてオーロラの舞う空——そんな光景が“CGではなく実在する”と信じられない人々が一定数存在しているのだ。

このネット文化を受け、アイスランド航空は、「アイスランドは本当に存在する」という前提そのものを茶化しつつ証明する、ユーモアあふれるキャンペーンを開始した。

SNS発の風刺キャンペーンを仕掛けた背景

このキャンペーンはアイスランドのエージェンシー Hvíta húsið と、ソーシャル専門エージェンシー Kubbco が共同で制作したもので、SNS世代の“AI疲れ”と“フェイク画像への不信”を逆手に取った構成になっている。

映像では、アイスランドの自然写真を疑う主人公が、「火山も温泉も溶岩地帯も、こんなもの現実にあるわけない」と嘆く。一方、彼の妹は「アイスランドは実在する」と主張し、疑い深い兄を実際のアイスランドに連れ出して証拠を突きつける、というコメディ仕立ての展開が描かれている。

アイスランド航空のマーケティングディレクター、ギスリ・ブリンヨルフソンは次のように語る。
「AIが日常にあふれ、本物と人工物の境界が曖昧になる時代に、アイスランドが“現実と同じくらい素晴らしい場所”であることを、文化的にしっくりくる方法で伝えたかった」。

陰謀論・フェイクニュース文化を逆利用する戦略

Kubbcoのエグゼクティブ・ストラテジー・ディレクター、デイヴィッド・ユール・レッドストラップは、今回の狙いを次のように説明する。「アイスランド航空から“アイスランドはAIが作った世界ではない”というテーマを受け取り、ソーシャルの文脈で人々を巻き込めるキャンペーンを考えることが私たちの役割でした。
陰謀論やフェイクニュースといった文化的現象への反応を踏まえ、ユーモアや愛着の湧くキャラクターを使って、人々が参加したくなる形に落とし込みました」。

SNSで話題になる構造を前提にしたこの手法は、ターゲット層が日常的に接するフォーマットに合わせて設計されており、ハッシュタグ文化やコメントでの突っ込みを促す“拡散可能性”が重視されている。

デジタル時代の観光PRとしての成功

キャンペーン公開後、SNSでは「本当に行って確かめたい」「AIじゃないのが逆に信じられない」といった反応が相次ぎ、実際に旅行計画の検索が増加しているという。レッドストラップは、「この企画によって、大勢の人が作品と対話し、次のアイスランド旅行を本気で検討している様子を見るのは非常に嬉しい」と語る。

AI画像が当たり前になり、“本物らしさ”の価値が問われる時代において、アイスランド航空はあえて陰謀論を笑い飛ばしながら「現実のアイスランドのほうが、AIよりよほど信じられないほど美しい」というメッセージを届けた。その姿勢こそが、今のSNS世代に強く刺さる理由でもある。(出典・画像:Iceland Airilne, Branding in Asia)

関連記事一覧