
フォレスト・カーボンの革新的リブランドが生態系再生にもたらした転換
フォレスト・カーボンが手がけた大胆なブランド再構築は、ドラム・アワードのデザイン・ブランド・アイデンティティ部門とソニック・アイデンティティ部門の双方で金賞を受賞し、その取り組みの独自性を示した。従来は「カーボン・オフセット企業」として扱われがちだった同社を、生物多様性回復に取り組む科学的なスチュワードとして再定義し、自然環境が奏でる音を起点にしたビジュアルと言語体系によって、生態系の生命力を伝えるブランドへと進化させたのである。
カーボン企業から生物多様性のスチュワードへ
フォレスト・カーボンはインドネシアで創業した自然再生のパイオニア企業であり、東南アジアで劣化した湿地林の修復に取り組んできた。彼らの活動は気候危機への対応に寄与し、生物多様性の回復を促し、地域住民の生活を支えるものである。しかし、長年にわたり「炭素クレジット」による収益が強調されすぎた結果、その実際の効果や多層的な価値が十分に理解されず、ブランドが単純化されてしまっていた。炭素市場自体への批判が高まるにつれ、このイメージは企業の成長や投資の獲得、信頼の醸成に対して制約となり始めた。
状況を打開するために、フォレスト・カーボンは自身の役割を、炭素排出量の相殺者から、生物多様性とコミュニティ再生を担う科学主導の機関へと明確に転換する必要があった。自然資源への注目が高まる今、このリブランディングは不可欠な介入となり、企業の存在意義そのものを再提示する機会となった。
自然の「音」を中核に据えたクリエイティブシステム
今回のクリエイティブ戦略の中心となったのは「音」である。フォレスト・カーボンは、再生した湿地林の現場で採取した生物音を基盤にしたブランドアイデンティティの構築を進めた。鳥のさえずりから大型哺乳類の鳴き声まで、多様な環境音を特殊な録音装置で収集し、そのデータを高速フーリエ変換(FFT)によって分析した。周波数と振幅を分解した音響データは、環境や生物群の特徴を示す“音の指紋”となり、ブランドのビジュアルを形づくる基礎となった。
この音の振動を可視化するため、クラドニ図形から着想を得たパターン生成を行い、Touch Designer上で音に反応するモーションへと変換した。こうして生まれたアニメーションやグラフィックは、自然の音を視覚化した“生態系のサウンドスケープ”であり、フォレスト・カーボンのブランド言語の核心となった。サウンドデザイナーとアーティストの共同作業によって、科学的厳密さと芸術性のバランスが保たれたアイデンティティが完成したのである。
熱帯生態系を体現するビジュアルと言語の再設計
このシステムを支えるロゴタイプは、熱帯林の根系が伸びるような流動的な字形を持ち、見出し書体には楽譜から着想を得たタイポグラフィ、補助書体には科学的信頼性を担保する技術系フォントが組み合わされている。カラーパレットは熱帯植物や動物が持つ色彩から抽出され、生命力と情緒の両方をブランドに宿した。
新しいアイデンティティは、各種資料、プロジェクトレポート、地域コミュニティ向けキット、さらにはニューヨーク気候ウィークのような国際イベントで展開され、生物多様性回復を“見える”だけでなく“聴こえる”ものへと転換する効果を生んだ。セクター内に蔓延する抽象的な“グリーン表現”から脱却し、実際の生態系再生の事実を感覚的に伝える手段となったのである。
この新ブランドは、投資家やNGO、政策立案者に対してフォレスト・カーボンの活動の実効性を示す証拠ともなり、科学と感情、保全と資金調達の境界を横断するツールとして機能している。
組織の信頼回復と市場における新たな勢い
2025年3月にローンチされたこのアイデンティティは、社内でも組織の使命を再確認させる効果を持ち、炭素市場の枠を超えた価値創出を明確にする一助となった。その外部への波及も極めて大きく、ローンチ投稿は35万インプレッションを超え、7,500以上のリアクションを獲得した。ウェブサイト訪問者数は189%増、SNSフォロワーは72%増加し、競合比で55.4%高いエンゲージメントを記録した。インスタグラムのリーチは5500%という劇的な伸びを示した。
この成果によって、同社は429,500ユーロと250,000ドルの助成金を獲得し、現在は2,500万ドル規模の過去最大の投資獲得プロセスが進行中である。立ち上げ以降、新規バイヤー10社以上との商談が成立し、2件の大口クレジット売却を後押しし、CEOは15件以上の講演依頼を受けるなど、オピニオンリーダーとしての地位が強化された。
創業者であるジェフリー・シャトリエとデヴァン・ウォードウェルは、「私たちのブランドは生命そのものであり、生き物の周波数をもとにアートを形づくっています。環境市場にありがちな商品化ではなく、自然が本来持つ価値を中心に据えたいと考えています。この自然を動力源とする技術とデザインによって、私たちは“緑だらけ”の業界のなかで際立つ表現へとたどり着きました。これは美観の問題ではなく、自然の美しさを称え、未来に残すという共通のビジョンの反映なのです」と語る。
フォレスト・カーボンのブランドは、信頼を取り戻し、勢いを生み、生態系そのものに“声”を与えることを目的に構築されたが、現在まさにその使命を実現しつつある。(出典:The Drum)
















