
ジョン・ルイス、2025年のクリスマス広告で描く─ビニールがつなぐ父と息子の再生物語
言葉よりも贈り物を
「言葉が見つからないなら、贈り物を見つけよう」──英国の老舗百貨店ジョン・ルイスが発表した2025年のクリスマス広告は、このフレーズを軸に展開される。
今年のテーマは、長年距離ができてしまった父と息子の関係修復。無言の時間が続く中、息子が選んだ“ある贈り物”が、ふたりの絆を静かに呼び覚ます。
音楽が記憶を呼び戻す
物語の中心にあるのは、アリソン・リメリックの1990年代の名曲「Where Love Lives」。ミュージシャンのラブリンス(Labrinth)が新たにリミックスしたこの曲が、父親の心の奥に眠っていた青春の記憶を呼び起こす。
息子が贈ったターンテーブルにレコードを置いた瞬間、父は若き日のダンスフロアに戻り、自由で情熱的だった頃の自分と再会する。やがて、記憶の中のフロアに息子の姿が現れ、父はその存在を受け止める──音楽が言葉の代わりに心を通わせる瞬間だ。
贈り物が語る、言葉にならない想い
この広告を手がけたのは、英広告会社サッチ&サッチ(Saatchi & Saatchi)。ジョン・ルイスはYouTube上で次のようにコメントしている。
「私たちはしばしば、自分の気持ちをうまく言葉にできません。大声では言えないし、何を言えばいいのかもわからない。でもクリスマスになると、心のどこかで“伝えたい”と思うようになるのです」
ブランドは続けてこう述べている。「これは父と息子の物語であり、ふたりを再びつなぐ贈り物の物語です。贈り物はときに、言葉が届かない想いを代弁してくれるのです」。
音楽とギフトが融合するキャンペーン
Saatchi & Saatchiのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、フランキ・グッドウィンは語る。
「ジョン・ルイスのクリスマスキャンペーンの中心には常に音楽がありますが、今年は“ギフトそのもの”が主役です。この曲を通して、“言葉にできない想いを伝える贈り物の力”を改めて描きたかった。多様なチャンネルで展開するこの楽曲が、人々にとって思慮深く、感情豊かな贈り物や、家族で古いプレイリストを聴き直すきっかけになればと願っています」。
アーティストが語る「Where Love Lives」への想い
オリジナル曲を歌ったアリソン・リメリックは、このコラボレーションに強い感動を示した。
「『Where Love Lives』がジョン・ルイスの広告に使われると聞いたとき、思わず声を上げました。音楽には人々をひとつにする力があります。今年の広告を通じて、この曲に新たな感情的つながりを感じてもらえることを願っています。ラブリンスによる新しいバージョンは本当に美しく、心を愛で満たしてくれるはずです」。
一方、リミックスを担当したラブリンスも、自身にとって特別な意味を語る。
「僕のようにイースト・ロンドンのハックニーで育ち、毎年この象徴的な広告を見てきた少年が、いまジョン・ルイスのために音楽を再構築できるなんて、本当に光栄です。この広告はイギリスのクリスマス文化の一部であり、参加できたことを誇りに思います」。
クリスマスの“音”が、再び家族をつなぐ
ジョン・ルイスのクリスマス広告は毎年、社会や家族の感情を丁寧にすくい上げることで知られている。今年は“音楽と贈り物”という普遍的なテーマを通じ、言葉にしにくい想いをどう届けるかを描いた。
ターンテーブルの上で静かに回るビニール盤。その針先から流れ出す旋律が、遠ざかっていた父と息子の心を再びひとつにする。
ジョン・ルイスが伝えたいのは、きっとこういうことだ──「想いは、必ず届く」。(出典:ジョン・ルイス、Branding in Asia)
















